人と組織のニューノーマル(新常態) ~Withウイルス時代の組織開発・人材開発の論点3「タレントマネジメント」のニューノーマル

そもそも、タレントマネジメントとは何か?

人材開発に関する言葉の中で、「タレントマネジメント」という言葉ほど、何でもかんでも含んでしまう言葉も他にはないのではないか。従って、本質的な意味合いを理解できていないまま、各人が思い思い好き勝手な解釈で、この言葉を使っているように思う。

タレントマネジメントとは、「中長期的な組織の成長を実現するため、一人ひとりの能力やスキル・才能(=タレント)に着目し、一気通貫する哲学(人事理念)によって、人材の採用、配置、育成、評価、処遇を、効果的に管理すること」を指す。

こう表現すると、どこの企業でも既に行っていることではないかという反応をする人も少なくない。しかし、もちろん、採用・配置・育成・評価・処遇はどの企業でも行っていることに違いないが、残念ながら “タレントマネジメント”と言える考え方を実践できている企業はそう多くはないというのが私達の実感だ。

自社はタレントマネジメントを実践できているか、いや、できているかどうかに関わらず少なくとも指向しているかどうかを確認できる簡単な方法がある。まず第一に、人材に対する基本的な考え方を確認してみることだ。タレントマネジメントを指向していると言えるためには、人材は、代替可能な単なる歯車の一つではなく、財産である、しかも、所属部門のものではなく、会社全体の財産であると認識している必要がある。

第二に、採用・配置・育成等は誰が行っているか(行うことになっているか)を確認してみることだ。タレントマネジメントを指向していると言えるためには、人事が主導して行うべきものではなく、経営者、及び各組織のマネジャー一人ひとりが主体的に行うべきことという認識が浸透している必要がある。人事部はあくまでも彼らがタレントをマネジメントする為の強力な“支援者”としての立場という認識になっているだろうか。

そもそも、これまでの日本では長い間、人材の“タレント性”(能力、志向や特性)は重要とされてこなかった。「個人の能力」より、企業の方針や考えに合わせることができるかどうかのほうが重視されたし、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の考え方が主流だったので、「個人の志向や特性」に合わせて人材配置を行うことも少なかった。タレントマネジメントを標榜するためには、まず人材に対する基本的な考え方について、改めなければならない企業は多いだろう。
一方、タレントマネジメントを“経営や現場が主体的に行っている”と胸を張れる企業も多くはないだろう。多くの企業で人事は、人事部が中心となって行うべきことだった。そこでは、人事情報はあくまでも隠すべきものであって、経営や現場に活用してもらおうという発想はなかった。

2つに大別されるタレントマネジメントのアプローチ

冒頭で、「タレントマネジメント」という言葉の意味は、相当バラバラに使われていると述べた。特にバラバラなのは、“タレント”が意味するところだ。あなたは、あるいはあなたの会社では、タレントマネジメントという言葉をどのような意味あいで使っているだろうか。

タレントマネジメントはアプローチの違いで大きく2つに分けられる。包摂アプローチと、選別アプローチだ。どちらのアプローチをとっているかで、“タレント”が意味するところは大きく異なるはずだ。

ATD(=Association for Talent Development。アメリカの人材開発に携わる団体。例年大規模な人材開発に関するイベントを行い、世界中から人を集める)は包摂アプローチをとっており、「全社員がタレント」だとしている。

包摂アプローチの一つであるFITM(Fully Inclusive Talent Management)という考え方においても、社員全員をタレントとみなし、その幸福感の向上が企業の長期的な成果につながるとしている。

一方、選別アプローチでは、「一部の人材だけを特にタレント」とみなす考え方をとる。

STM(=Strategic Talent Management)は、キーポジションを設定して、そのポジションを充足させることで企業の競争優位性を担保しようとする考え方だ。GTM(=Global Talent Management)は、STMの一種で、グローバル展開を視野に置いた、国を跨いでの選別アプローチによる対応だ。

包摂か選別かによって“タレント”が意味するところは大きく異なるし、アプローチによってそれぞれ特徴も異なるが、「組織にタレントを引きつけ、開発し、留め続ける」というタレントマネジメントの中核的な考えだけはどのアプローチでも共通していると、タレントマネジメントを研究する学者は指摘している。(「日本企業のタレントマネジメント」(石山恒貴著 中央経済社)

そして、どのアプローチを採るにしても、避けては通れないのが人材の可視化だ。

タレントマネジメントの出発点は可視化だが、可視化はDB化することでは決してない

タレントマネジメントの一丁目一番地は、可視化だ。すなわち、「現状どんな人材が居るのか」「今後どんな人材が必要か」「ミスマッチが起こっているのかいないのか」「この経営戦略に活かせる人材がどこにどれだけ居るのか」といったことが組織として明確に見えていなければ、タレントマネジメントを進めることは不可能なはずだ。

ただ、可視化が重要ということに目を奪われるがあまり、人材のDB(データベース)を作ることがタレントマネジメントの目的と勘違いしているかのようなケースが散見される。

本質を確認するためにも、実はDBなどがまだ未整備だった頃に、タレントマネジメントを効果的に行っていた、某グローバル企業で聞いたエピソードを紹介したい。グローバルに展開し数万人の社員が活躍する製造業の、20年ほど前の話だ。

このグローバル企業のトップは、2か月間に10日ほどの時間を日本に来て過ごしていた。滞在中、そのうちの5日間は、タレントマネジメントの中でも特に重要と位置付けている、サクセション・プランニング(次世代経営人材育成計画)に費やしていると言っていた。忙しいスケジュールの合間を縫って、半分の時間をタレントマネジメントに使っていると言うのだ。

具体的にどのようなことを行っているのかを聞いてみると、滞在先のホテルに経営幹部を集めて缶詰めになるのだと言う。そこで、まず、事業戦略を遂行する上での欠かせない重要なポジションと、現在そのポストを担う人の顔写真を壁に貼ると言う。そして、各ポジションに求められる要件を確認した後、各ポジションを担うタレント(次世代経営人材候補)2~3人の顔写真を貼る。2~3人の候補が挙げられないようなら、経営陣に対して「普段何をしているのか」と檄を飛ばすと言っていた。さらに、各ポジションの次世代を担う候補者が誰かを皆で確認しながら、各候補者の強みや足りないことや、育成のための配置を議論するのだと聞いた。

トップが、グローバルに広がるキーポジションそれぞれの次世代を担う候補者を自分の目で確認し、戦略的な育成と配置を行っていく。会社全体で育成と配置を考えるということが重要だ。

経営幹部皆がこの議論を共有していることで、例えば職場で行われる会議での次世代経営人材候補とされている発言一つに、経営幹部が耳をそばだてるようになる。彼・彼女の言動や一挙手一投足に関心を寄せるようになる。次世代経営人材候補からすると、こうして経営幹部からの期待が寄せられていることが肌で感じ取れるようになるので、ますます頑張るようになる。数人の候補が、切磋琢磨する中でさらに成長を遂げることにつながる。

最近はグローバルに活用できる人材データベース(DB)が十分に整備されたと聞くが、DBが未整備だった頃から行っていたことこそが本質なのだ。

ニューノーマルにおけるキーワードは「可視化」だということは、再三述べてきた。タレントマネジメントが進んでいないとしたら、多くの場合、従業員のタレント性を可視化できていないことが原因である。従って、経営が、人材DBの整備や活用を進めるように指示を出すことも否定はしない。しかし、そもそも従業員をタレントとみなし、その能力、あるいは志向や特性を真剣に見出し活かそうとしているか、あるいは、どこまで自分の後任を真剣に探し、戦略的な育成・配置に関わっているか、経営は今一度自身の胸に手を当てて振返ってみることから始めるべきだ。

タレントマネジメントのニューノーマル

コロナ禍を経験し、これからどの業界どの企業でもあらためて、人材に関する多様な課題が挙がるはずだ。大きな節目だということは、皆さん感じられていると思う。コロナ禍によって生産性に対する意識には大きな影響があったし、働く人の就業意識の変化が起こり、雇用形態の多様化ニーズはますます高まり、今後求められるマネジメントスタイルも大きくアップデートしなければならない。しかし、こうした多様な課題の一つ一つに断片的に対応するのではなく、「タレントマネジメント」という大きな枠組みを持ち出して、再考してみるのが効果的だというのが私達の提案だ。

そもそも、コロナ禍の前から、少なくない日本企業で人事は、中長期的な取組みが必要ないくつもの大きな課題を抱えていて、大胆な変革が求められていた。変化のスピードが著しい現代社会で変化に対応するには、人材マネジメントの再構築が必要と考えられており、タレントマネジメントはその方法の一つとして注目されていた。

評価体系や報酬の仕組など、人事制度の改革も、なかなかきっかけがなければ取り組めないだろうから、この機会を活用するのがよいだろう。さらに、人事制度に留まらず、人材マネジメントの骨格の部分、即ち、雇用や人材開発などの一連の在り方を見直すのは、この機会をおいて他はないのではないか。いま、タレントマネジメントの見直しに着手するかしないかでは、5年後10年後の組織の人材力には大きな差がつくと思う。

では、どのような点に留意しながら見直すべきかを最後に触れておこう。

「組織にタレントを引きつけ、開発し、留め続ける」ことがタレントマネジメントの中核的な考えだと先に述べた。

「引きつける」というのは、即ち、採用と選抜だが、さらに最近は、EVP(Employee Value Proposition)の重要性がクローズアップされている。EVPとは、タレントを引きつける価値、つまり、学びや成長の機会などを明確にすることを意味している。人事施策に関する評判を高め、ブランド化することで、有能なタレントを引きつけやすくすることの重要性は、今後さらに増すだろう。

「開発する」というのは、人材育成とキャリア開発だ。IDP(Individual Development Plan)の重要性に注目が集まる。人材育成においては、集合研修などの提供に留まらず、IDP、つまり個人別に期間を定めて向上計画を作成することが、キャリア開発においても、個人として同期を維持していくために、IDPが欠かせないとされている。

そして、「留め続ける」ためには、パフォーマンスマネジメントと報酬が必要だ。そもそも、多くの日本企業では、「留め続ける」という発想をもってタレントマネジメントを考えること自体がチャレンジかもしれない。社員は長期雇用されるものという前提で人事管理してきたからだ。 最近は、タレントに留まり続けてもらうために、エンゲージメントの重要性に多くの企業が着目している。エンゲージメント向上は離職率の低下と大いに相関関係があるとの調査結果も出ている。


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