ニューノーマル時代のパフォーマンス・マネジメント

リモートワークで「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行が加速

コロナ禍の3月、日経ビジネスに「どうする?働かないおじさん」というやや差別的なタイトルの特集記事が掲載された。キーワードは「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用へのシフト。日本的経営の根幹となっていた長期雇用・年功序列からの脱却を図る企業事例として、日立・トヨタ・味の素が取り上げられ、「職務(ジョブ)ありき」の採用・配置・評価・処遇を行う人事制度改革が紹介されていた。その後も、ジョブ型へのシフトを表明する企業が後を絶たない。

同時に、感染拡大に伴うリモートワークの推進で、「時間ではなく成果で評価する」ことに本腰を入れる企業が増え、中には「週休3日を導入し、さらなる生産性向上を追求する。そのための成果マネジメント強化」に取り組む企業も出てきている。

PFCでは『グローバル組織開発ハンドブック(東洋経済新報社)』を上程した際、グローバルな人材獲得競争(タレント・ウォー)の観点から、日本企業は職務(ジョブ)を中核にした成果マネジメントへのシフトが課題だと問題提起した。実際、日立をはじめとする日系グローバル企業は、数年前からグローバル横断的にポジションのランク付けを行い、処遇への関連付け、人材のグローバルな流動化促進に取り組んでいる。企業がいま「ジョブ型」を求める理由は、下図1のように整理できる。そしていま、ニューノーマルの働き方、リモートワークへの対応として、時間ではなく成果によって評価を行っていくために、職務の明確化がピープルマネジメントのカギとなるに至っている。

図1:なぜ、いま企業はジョブ型を求めるのか

ニューノーマル時代、適切なパフォーマンス・マネジメント運用がますます不可欠に

職務(ジョブ)の明確化はすなわち、職務記述書(JD:ジョブディスクリプション)を指す。我々のクライアントの多くは、JDの導入まではしていなくとも、目標管理を既に運用している。その中で「成果や目標の明確化ができていない」というご相談が多々ある。よりつきつめて、何が具体化できていないかを掘り下げる必要があるし、本当に目標設定だけが課題なのだろうか?と常々疑問を抱いてきた。今は、目標設定そのものが課題なのではなく、パフォーマンス・マネジメントの運用の仕方に課題があるのではないかと感じている。

たとえば、外資系の多くの企業では、次のような3つの要素でパフォーマンスマネジメントを行っている。

図2:パフォーマンス・マネジメントにおける3つの要素

日系企業においても、目標管理を導入していれば、この要素は変わらないことと思う。ただ、運用面で差がありそうだ。たとえば、突発的な仕事が生じたときに、管理職が、「○○さん、これやっておいてください」で片づけてしまっていたとしたら、それは以下に紹介する「メンバーシップ型のマネジメント行動」だ。パフォーマンス・マネジメントを駆使して、例えば次のような行動をとらねばならない。

①それが一時的であり、作業量がさほどでもなければ、本人と話し合い、タスクに加えてもらう。「進んで協力する」といったコンピテンシーで評価する。あるいは、本人のキャリアに役立つことを示す。

②その仕事が一時的であるがかなりの作業量である場合、目標に書き加えて、成果として評価する。

③その仕事が恒常的で、かなりの量であれば、職務(ジョブ)に加える。ただし、ジョブが増えたので、給与を上げることが必要になるかもしれない。

いずれのケースでも、当然ながら、突発的な仕事の背景、戦略的な位置づけ等を本人に説明せねばならない。

「○○さん、これやっておいて」という「メンバーシップ型アプローチ」では、「忖度」が中核になるが、ご紹介した「ジョブ型アプローチ」では、パフォーマンス・マネジメントの要素を駆使した「コミュニケーション」がカギとなる。管理職の正しい制度理解と運用、コミュニケーション力やコーチングスキルが、人と組織の成長を促すドライバーになるのだ。

図3:メンバーシップ型組織とジョブ型組織

自律人材を育むコミュニティ形成のためのパフォーマンス・マネジメント運用

「ジョブ型」で社員の側に求められるのが「キャリア自律」だ。ジョブの要件が明確になると、自分が次にめざすジョブは社内のどこにあるのか、そのジョブにつくために(社外の候補者とも伍していくために)、どのような能力開発が必要なのか、と主体的に取り組まねばならない。ジョブ定義まで導入していない企業でも、リモートワークによって、社員が自律的に目標達成に向けて働くかどうかが大きな課題になっている。

このような文脈から、ニューノーマルのパフォーマンスマネジメントで特に重要になるのは、

  1. 目標の明確化(期中何を目指すかの明確化)
  2. 目標への動機付け(目標が自分ごと化し、自律的に働く)
  3. 個別のフォロー(各人が最大の成果を上げられるよう、各人の状況に適した支援を行う)

の3つと考えられる。以下、それぞれについて問題提起をしておく。

1.目標の明確化

成果で評価するためにも、そして社員が自律的に働くためにも、期中に何を目指すのかの明確化は不可欠だ。「目標の定量化ができていないので強化したい」という問題意識には、定量化そのものの手法に加え、
・目標が達成された成果のイメージ
・その指標となりうるもの
・達成までのプロセスやマイルストーンは何か
等について、上司と部下でイメージをすり合わせながらの目標定義ができていない、ということも含まれているのではないだろうか。事業部や職務の特徴に応じた目標設定の方法は、ビジネスパートナーとして人事部の支援の余地が多分にある領域と言える。

2.目標への動機付け(自分事化)

弊社のパフォーマンス・マネジメント研修では、よく目標明確化のための「SMART」モデルをご紹介しているが、今回ご紹介するのは「M」を一つ加えた「SM”M”ART」だ。






目標達成はSM”M”ARTに

SMART上級編として、MにMotivating、本人がやりがいを感じているか?目標に対して動機づけられているかのチェックを追加したものだ。
また、動機付けは非常に幅広い領域だが、自発性を引き出し、自律人材を育むために特に重要なのは、SMARTのRにあたる「組織的な意義(組織の目標と自分の目標の連動を理解すること)」だ。コロナ以後、事業環境は激変し、この先しばらく続くであろう低成長時代を迎えるにあたり、不確実な中でアクションをとりながら、戦略や方針を模索する日々が始まっている。職場の方針や優先事項はめまぐるしく変わる。経営やマネジメント層が何を考えているのか、なぜ、そしてどう方針変更を行うのか、タイムリーな情報開示、方針共有が、VUCAの時代のエンパワメント(権限委譲)の基盤だ。タイムリーな情報共有が、自らの役割や目標、計画を自ら考える土壌を育む。

3.個々人に合わせたフォロー

スキルや知識、性格やキャリア志向性、雇用形態、リモートワークにおける家庭環境、といった社員の多様性を見極め、個別に適した支援を提供する重要性は、今後ますます高まるだろう。

パフォーマンス・マネジメントの一環としての部下との個別面談(ワン・オン・ワン)は、日系企業にも浸透してきている。そこで、意外に見落とされがちなのが、部下の状況に合わせた面談の頻度や所要時間だ。最適な頻度と時間は、それぞれの課題等によって、話し合いの上、頻度や長さを決定するするのがよいだろう。

図4:フォローの方法は多様

管理職に求められる役割

今後管理職に求められるのは、パフォーマンス・マネジメントの制度を理解し、コミュニケーションを駆使して、自律人材を育むコミュニティづくりをすることと言い換えてもよいだろう。

コミュニティづくりに加えて、組織の機能面での変革やメンテナンスも同時に重要になると思われる。
先日、ある日系企業で「ニューノーマルの成果マネジメント」と題して管理職向けのセミナーを行ったところ、参加者の一人から「わが社はジョブの定義までしていないが、目標管理を長年にわたり実践してきた。それでも、部門の間におちるグレーな仕事を誰も拾おうとしないというという問題が解決されない」というコメントを頂いた。このコメントには考えさせられた。
この、組織間に落ちるボールは、メンバーシップ型のメンタリティに基づく自発的な行動ではもはや拾うことはできず、ジョブ型でタスクに落とし込み、組織的に位置づけるしかないのかもしれない。そうなると、今後重要になる管理職の役割は、組織に必要な、新たに生じてくるジョブや役割を見出し定義すること、制度運用によるコミュニティを作ること等と共に、今後必要になるタスクを機能面から再構成し、適材適所で配置し、機能させていく力、ということになるだろう。(ピープルフォーカス・コンサルティング取締役 山田奈緒子)


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