日本企業が真にSDGsに貢献するために:組織開発・人材開発の責任者・担当者への提言

「日本企業が真にSDGsに貢献するために」前編はこちら

日本企業が真にSDGsに貢献するために:組織開発・人材開発の責任者・担当者への提言1 パーパス(存在意義)の再定義

真のSDGs経営とは、SDGs達成のために、社会における自社のパーパス(存在意義)を再定義し、自社の本業を含む全ての事業を再編したり組み立て直したりすることである。好事例としては、バイオソリューション企業のノボザイムズ(本社:ノルウェー)がある。ノボザイムズの経営陣は、SDGsを活用して製品開発のパイプラインや戦略的施策の優先順位付けを行い、SDGs目標の達成に寄与するバイオ技術の開発に成功した。

日本企業が真にSDGsに貢献するために、組織開発・人材開発の責任者・担当者への1つ目の提言は、「パーパス(存在意義)の再定義」だ。 皆さんは、次世代を担うリーダーには、目先の利益の追求ではなく、時間軸を長くとって未来に渡って継続していく事業や組織を作ること、即ち将来の構想力を期待しているだろう。 しかし、多くの場合、「将来」を担うことが期待されるリーダー達は、もちろん「現在」の事業運営を任され成果を出すことが求められており、今を回すことで精いっぱいだ。「将来」と「現在」はトレードオフであって、結局「将来」のことは二の次になっている。そこで、SDGsを活用して、組織の将来のビジョンづくりを進めるのだ。

リーダーにとって、将来のビジョンを掲げることの重要性は、今さらあらためて述べるまでもないだろう。
しかし、その重要性は誰もが分かっていても、実際に効果的なビジョンを策定し掲げることができている組織は多くはない。とりわけ、そのビジョンを聞いた皆がこの組織に属していることを誇りに思い、組織に属する皆から「是非実現したい」というモチベーションを引き出し、実現に向かうエネルギーが自然と生まれるようなビジョンを描くのは決して容易ではない。
私達もこれまで数多くの企業でリーダー達によるビジョン作りをご支援してきたが、将来像をなかなか効果的に描けずに苦労するリーダーの姿を目の当たりにしてきた。ビジョンを考える前に“パーパス”(存在意義)を考え抜くことが足りないリーダーが多いのだ。将来の社会における自組織の“存在意義“を考え抜き再定義することで、何より、リーダー自身が自らの情熱を傾けることのできる要素を見つけることができるはずだ。
これまで、私達も、将来の社会における自組織の“存在意義“を考えるセッションを数多くファシリテーションしてきたが、経験から学んだその際の留意点は以下の通りだ。
1)議論の中で、業績成長目標などの「自組織の“勝手”」が前面に出がち。「自組織の“勝手”」から考えるのではなく、「あくまでもSDGsが目指す社会の将来の姿をまず考え、次に社会に自社・自組織がどう貢献できるか」と考えなければならない。
2)SDGsが目指す将来の社会を考える際、「未来“予測”」に終始することが少なくない。「未来予測」ではなく「将来構想」にするために、社会課題の変化を考える際に、自社の事業に関係する領域のみに焦点をあてるようにする。
3)“こうなったらよい”と、あくまで「都合のよい将来」だけを考えるので議論が深まらない場合がある。現在「自社が社会にもたらしている負」にも目を向け、将来その負を解消することへの貢献も同時に考えるべきだ。

日本企業が真にSDGsに貢献するために:組織開発・人材開発の責任者・担当者への提言2 CSV事業の立ち上げの促進

CSVの分野で、日本企業は世界においてどのような位置づけだろうか。FSGのCSV推進機関であるShared Value Initiative(共有価値イニシアチブ)が、フォーチュン誌と共同で、2015年来毎年、優れたCSV事業を行う50社を世界中の企業の中から選出している。日本企業はといえば、2015年は1社(トヨタ自動車)、2016年は2社(伊藤園、パナソニック)、2017年は1社(トヨタ自動車)、2018年は1社(トヨタ自動車)、2019年は1社(NTT)が選出された。この5年間合計で選出された192社のうち日本企業は、以上の4社に過ぎず、存在感は薄い。  

ただし、3回も選出されているトヨタ自動車は、日本企業の1つのモデルとなろう。2007年に、当時の社長の渡辺捷昭氏が「走れば走るほど空気がきれになる車を開発しろ」と社内に檄を飛ばしたと報じられた(日本経済新聞2007年4月2日)。これは、ムーンショット的な言動といえよう。

日本企業が真にSDGsに貢献するための2つ目の提言は、「CSV事業の立ち上げ」の促進だ。 CSVとは、Creating Shared Valueの略称で「共有価値の創造」と訳される。以前企業にとって基本となっていたCSRは、Corporate Social Responsibility の略称で、「企業の社会的責任」と訳された。
CSV提唱者のFSG創設者であるマイケル・ポーター氏とマーク・クレマー氏によれば、CSRとCSVの違いは「事業との相関性」にある。 CSRは企業の事業とは全く関係ない活動に対しても当てはまるのに対し、CSVは企業の事業領域における活動である。
CSRは、本業とは関係のない取り組みで、いわば「コスト」であった。それに対してCSVは、その活動自体を「本業」に据えている。CSV活動自体が競争の源泉であり、利益追求の対象である。そのために企業全体が動く。CSRは一つの部署が担当するのに対し、CSVは企業全体の目的になるのだ。
そして、CSVの本質は、「社会価値と経済価値の両立」にある。SDGsを活用して、主要なビジネス目標とソーシャルインパクトの創出を両立させる戦略を立案し、事業化することを促進することは、多くの企業の中心に据える活動なのではないだろうか。
伊藤園が、CSV事業と位置づけ、茶産地育成事業を行っているのは有名だ。「緑茶の原料である茶葉を、安定的にかつ高品質で仕入れるための自社目的」と「農家の教育と安定的な収入の確保の社会的課題解決」の2つを同時に追求している。具体的には、茶葉農家と伊藤園が契約し、伊藤園のための茶葉を生産してもらう代わりに全ての茶葉を購入するという施策を実施している。伊藤園は茶葉の仕入れが安定し、同様に農家の収入も安定するためWinWinなビジネスモデルとなっている。
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの記事の中には、トヨタ自動車の事例なども詳しく掲載されている。ぜひご一読いただければと思う。 新事業の立ち上げのために、戦略立案やビジネスモデルづくりなどを支援・促進することは、これまでも随分行ってきているだろう。ただ、「うちの会社が儲かる」ためだけではなく、「社会にとって有益な価値を生む」ことと両立できる事業にすることに徹底してこだわる点が肝要だ。両立できる事業は、結果として儲からないわけがない。『だれ一人取り残さない』世界を作るというのがSDGsの基本理念であるが、それはまた、企業にとって将来の収益の源泉の可能性を示すものでもあるのだ。

日本企業が真にSDGsに貢献するために:組織開発・人材開発の責任者・担当者への提言3 コレクティブ・インパクト活動の主導

日本では、社会課題についての話題が上がると、「うちの会社だけではどうにもならない」と言うビジネスリーダーが多い。筆者自身もよく耳にするし、NGO団体代表も企業とのコラボレーションを呼び掛けても、必ずそういわれると嘆いていた。もちろんSDGsがあげている社会課題は非常に大きくかつ深刻な問題で、1社の努力で解決できるようなものは何もない。そこで必要となるのがコレクティブ・インパクトである。  

コレクティブ・インパクトとは、社会課題解決のためにセクターを超えたプレーヤーが集結し共通の目標達成にコミットして協働していくことであり、近年浮上したコンセプトだ。この方法論によって、複雑な社会課題を解決する成功率が高まるだけでなく、より広いビジネス界や社会と繋がる入口が企業にもたらされる。

日本企業が真にSDGsに貢献するために、人材開発・組織開発の責任者・担当者への提言の3つ目は、「コレクティブ・インパクト」活動を主導することだ。
日本における社会課題解決活動は、「良いことをすること」が目的になってしまう傾向があり、課題を本当に解決することにまでいかない例がほとんどだ。言うまでもないことだが、課題が解決されない活動には意味がない。
1社だけの取り組みでは社会課題を解決することは不可能だ。コレクティブ・インパクトというのは、社会課題は複雑なので、単体の主体のアプローチ(Isolated impact:孤立したインパクト)では限界があり、色々な立場の主体が強みを出し合うことで特定の課題を解決しようという考え方だ。専任のスタッフがいる、目標達成までのプロセスが明確であるなどの点で、単なる「協働」とは異なる。現代の社会課題解決は難易度が高いので、効率的・効果的なアプローチが必要であるとして、この手法は世界的に注目されている。国民負担を軽減するためにも、これまで政府が担っていた分野にコレクティブ・インパクトを導入することが重要だと考えられている。
我々PFCでも、1社ではなく複数社の、異業種・多業種の企業が集まり、さらにはNPO/NGOや国際機関なども加えた座組みで、コレクティブ・インパクトの取り組みを始めるきっかけを提供している。まずはあくまで研修という建付けではあるが、ある特定の地域に出向き、「この国・社会・地域の社会課題を見出し、本業を通じて解決する策を練る」という命題に皆で取り組む。これまで9年間は、毎年スリランカで行っていたが、今年はカンボジアに行き、来年はザンビアも渡航先に加える(GIAリーダー・プログラム)。さらに、日本国内でも、限界集落などの地域に出向く場を設けることを始めた(LIAリーダー・プログラム)。
真の社会課題解決を実現するには、現地に出向き、現地と接し、現地と対話することが欠かせない。そして、その際1社では、あるいは民間セクターだけではできないという限界を超え、解決策を生み出し実行に結びつけることが必要だ。研修のやり方を変え、研修をきっかけにして、コレクティブ・インパクト活動を主導することを模索してみてはいかがだろうか。