日本企業が真にSDGsに貢献するために

日本企業のSDGsへの現状の取り組み状況や課題、そして組織開発・人材開発の責任者・担当者の皆さんがリードすべきことについて、PFC代表の松村卓朗が提言いたします。ベースとなるのは、2019年10月2日にDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに掲載された黒田由貴子(PFC取締役・ファウンダー)とFSG(CSV事業を支援する米系コンサルティング団体))リシ・アガワル氏の共同執筆による「日本企業が真にSDGsに貢献するために」。

※DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの元記事もご覧になりたい方はこちら

国連が2030年に向けたSDGs(持続可能な開発目標)を制定して4年が経つ。SDGsに掲げられた17の目標は、地球社会の共存戦略である。この目標達成のためには、各国政府のみならず、企業を含めたあらゆるセクターの参画が不可欠とされた。しかし、FSG(CSV事業を支援する米系コンサルティング団体)が最近行った研究調査によると、ほとんどの大手グローバル企業のSDGsに対する取組みは不十分で、いわゆる「Business As Usual(これまで通りのビジネス)」の域を出ていないという結論に至った(「『これまで通りのビジネス』では地球を救えない」既報)。この記事の執筆者の一人であるFSGのリシ・アガワルとピープルフォーカス・コンサルティング(以下PFC)が同様の調査を、日本企業のSDGsへの取組みについて実施し、検証した。

今の日本はまるで“SDGs祭り”の様相

SDGsが制定された当初、国際社会での盛り上がりに比して、日本企業の関心度は低かった。国連グローバル・コンパクトの日本におけるプラットフォームであるグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンが2016年に、加盟企業233社に行った調査で、SDGsがトップマネジメントに定着していると回答した企業は28%に過ぎなかった。加盟企業には、社会課題解決にコミットすることが義務付けられているにも関わらず、である。  これに対して、今回のPFCの調査では、日本企業の売上規模トップ100社のうち、7割の企業が、アニュアルレポートの中でSDGsについて言及している。自社公式ウェブサイトでSDGsへの貢献を唱っている企業を含めると9割にのぼる。

貴社でのSDGsへの取り組みは今、どのような状況だろうか?おそらく御社のアニュアルレポートには、数ページを割いてSDGsに取り組んでいる旨が掲載されているだろう。御社のウェブサイトにも、SDGsの重要性と自社がコミットする意志について高々と書かれているだろう。社内を見渡せば、SDGsのバッジをつけている人も少なくないだろう。
新聞の企業広報記事に目をやれば、SDGsのマークが立ち並ぶ。日本では、株主総会や業界の会合といったフォーマルの場では、経営層がSDGsのバッジを身に着けることが「流行」にさえなった。もはや「SDGs祭り」の様相を呈している。因みに、経営陣がこぞってSDGsバッジを身に着けるのは日本特有の現象である。
こうしてSDGsに経営が力を入れようとすること自体は、素晴らしいことだ。しかし、これだけどの企業も同じようだと、SDGs取り組みの背後で骨格をなすのは、日本企業特有の「横並び」主義ではないかと勘繰りたくなる。現場の社員の意識にはどれほど浸透しているだろうか。社員の行動にはどれほどの変化が起きているだろうか。横並びがSDGsに取り組む理由ではなく、御社固有の取り組み理由があれば、社員は取り組みの理由を明確に語れるはずだし、現場で行動変化が実際に起きるはずである。

多くは単なる“紐づけ” “カテゴリー分け”に過ぎない日本企業の取組み

外国企業の場合は、SDGsの取組みがCSRの域を出ていないことが多いことが問題である。一方、日本企業の多くは、自社事業がSDGsに貢献していると表明している。しかし、それは、自社が元々展開していた事業をSDGsの17の目標に紐づけるという、単なるカテゴリー分けに過ぎない例がほとんどである。実態としては、企業の取組みに何ら本質的な変化は生じていないのである。

SDGsに取り組むことによって、御社では、何らか新たなことが生まれただろうか。新たな事業が生まれた、新たにイノベーションが起きた、新たな活動が始まった、何でもよい。もし、何も新たなことが生まれていないなら、単に“紐づけ”や“カテゴリー分け”に終始している可能性が高い。私達が接している企業でも、「今うちがやっていることはSDGsの8番に関係している」などと言って、自社が元々展開していた事業をSDGsの17の目標に紐づけるだけで満足している企業が少なくない。SDGsに取り組むことによって新たなことが生まれないならば、SDGsに取り組むということに何の意味もない。
逆に言えば、SDGsに取り組むことは、新たなイノベーションを生む絶好のチャンスとなるはずだが、そういう認識でSDGsを積極的に活用できている企業は、日本ではまだまだ少ないように見える。

SDGsへの表層的な取組みがもたらす問題 特に「SDGs ウォッシング」に要注意

こうした企業のSDGsへの表層的な動きによってもたらされる問題は、3つある。 

1つ目は、このままではSDGsを2030年に達成するのは難しいということだ。SDGsは、持続的に安全に社会が繁栄することを目指していて、企業に将来の健全なる消費者をもたらすこととなる。ということは、達成ができなければ、企業活動を行う環境が脅威にさらされることを意味する。9月下旬の国連総会でも、SDGsの進捗の遅れに対する危機感が各国首脳陣の間で共有された。  

2つ目は、表層的にSDGsに貢献していると広報することは、世界では「SDGs ウォッシング」と称され、市民社会やNPOからバッシングを受けるリスクがある。たとえば、2018年に、海外のNGOが28団体合同で、石炭事業への融資を行う金融機関をリストアップし、日本の3メガバンクがトップ4にランクインしてしまった(その後、この3メガバンクとも、石炭火力発電への投融資を見直すことを表明)。  

3つ目には、イノベーションを起こす機会を逃すことだ。SDGsが掲げる目標は、極めて高いものなので、従来の取組みの延長線上ではとても達成できない。そこで、米国のケネディ大統領のアポロ計画にちなんだ、壮大な目標をまず掲げ、それに必要なイノベーションを起こしていく「ムーンショット」というやり方が必要だとされている。企業も、SDGsに挑む際には、思い切った理想の状態を目標として掲げ、革新的な技術やビジネスモデルを追求するべきである。

しかし、表層的な取り組みに留まっているにも拘わらずSDGsに貢献していることを広報するのは、企業に益をもたらさないどころか、「SDGs ウォッシング」(上辺だけ取り繕っている)と称され、バッシングを受けるリスクがあるのだ。つまり、SDGsに取り組んでいると喧伝しながら、実態に乖離があるくらいなら、むしろ、取り組みも広報も全くしていない方がまだましということだ。SDGsの推進に関わるすべての人が、そのことを強く認識しておく必要があるだろう。
かつて、CSRが世の中に認知されていったときのことを思い出す。「CSRとはなんだ?よくわからない。」から始まり、「CSRというのは儲かるのか?」という話が聞かれるようになり、そして、「入札条件になった。我が社でもCSRだ、CSRをやれ!」という。ウォッシングとまでは言わないまでも、真の目的を見据えることなく、まさに「CSRのためにCSRをやる」という具合だった企業が少なくなかったと言うと言い過ぎか。SDGsに同じ道を辿らせてはならない。

後半では、「日本企業が真にSDGsに貢献するために:組織開発・人材開発の責任者・担当者への提言」として、組織開発やHR担当者ができることについて具体的に提案していきます。