ATD2019公開報告会レポート(Part 3)

ATD(Association for Talent Development)は、人材開発や組織開発の分野に従事する人のための世界最大の会員組織です。毎年開催されるICE(International Conference & Exposition)と呼ばれるカンファレンスは 4日間に渡り、基調講演の他300を超えるセッションが開催され、世界各国から1万人近い参加者が集います。まさに世界中の人材開発・組織開発の英知が結集される場です。

PFCでは毎年このATD-ICEに、ラーニングチームを組んで参加し、組織開発や人材育成の最先端事例やプログラムを持ち帰っています。この記事では、帰国後東京で行われた公開報告会のサマリーをお届けします。

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新技術のショックに対処する方法|新しいテクノロジーを評価するためのフレームワークの導入

SU101 – How to Handle the Shock of the New: Introducing a Framework for Evaluating Emerging Technologies

このセッションでは、職場学習に新たなテクノロジーを導入する際、それらが及ぼす影響を評価するための新たな枠組み(BUILDS framework)について解説されました。 評価項目は下記の6つ。 ぜひ参考になさってみてください。

BUILDS framework

B– Does it fit within the needs of your business?         
(自社事業のニーズに合っているか?事業価値の創出につながる内容になっているか?)

U– What is the user experience like?               
(学習者にどのような経験をもたらすか?品質面や使いやすさ、アクセスのしやすさやセキュリティ面はどうか?)

I – What impact will this have on the world?           
(政治的、倫理的、社会的にどのような影響を与えるか?組織の業績に与える影響はどの程度か?)

L– What are the learning models it supports?           
(どのような種類の学習を促進するのか?〔概念的/物理的/手続き的/関係性/自主性など〕)

D– What are some key dependencies that must be in place for this to succeed?                            
(ソフトウェア、ハードウェア、あるいは抵抗勢力への対応など他に考慮すべき要素は何か?)

S– What are the signals we should be reading in order to understand this?                         
(テクノロジーの変遷を理解するために)どのような兆しに着目すべきか?)

Science of Learning 

今年は、例年にも増して「脳科学」を利用した手法が重要視されていました。「Science of Learning(学びの科学)」と称したこのセッションカテゴリーの中で、「Neuroscience(脳科学)」という単語も目立っていました。
背景として、ティール理論やTeamingなどに代表されるように、昨今「チーム力」が話題になってきた中で、「なぜ従来のやり方では上手くいかないのか」を科学的に説明し、科学的知見を応用して人の行動や組織を変えるという、主にアメリカのトップ経営者層のトレンドがあります。

この分野においては多数の研究者がいる中、今回の全体的な登壇者の印象としては、主に2種類に分けられます。

  1. 脳科学者としてのキャリアが長く、その研究結果を人材開発・組織開発に応用して説明しているケース
  2. 人をどう変えてゆくか、という人材開発の領域から出発し、必要性に駆られて脳科学分野に渡ったケース

登壇者は圧倒的にアメリカ人が多かったですが、この2つのケースどちらにおいても共通して感じられたことは、どちらのケースであっても登壇者は「偏っていない」ことです。欧米においては、理系と文系、どちらから出発したとしても、上手くその中庸に立って解説できる、つまり実践的な話ができる研究者・講師が非常に多いと感じました。」

学習と記憶の脳科学

SU113 – The Neuroscience of Learning and Memory (1/2)

脳科学者として、20年余りに及んで「いかに人は記憶を保てるのか」というテーマに取り組んできたCarmen Simon氏は、「人は聞いたことの10%しか記憶できない」と言います。この10%をいかに伝える側がコントロールし、意図した10%を記憶させるか、その手法について脳科学的な見解からのセッションでした。

具体的にはこの「10%をコントロールする」ための3段階として
Attention(注目させる、それを持続させる)
Memory(記憶に紐づけやすくする)
Decision(自分で意思決定をさせる)
など、興味深い考察が多々ありました。

Wired to Grow 2.0 :学習の脳科学における 押さえておくべき最新情報

TU104 – Wired to Grow 2.0 : Critical Updates in the Brain Science of Learning (1/3)

脳のメカニズムに関して、Britt Andreatta氏の著書 Wired to Grow 2.0に掲載されている情報について、ポイントを解説した人気のセッション。

詳しくは書籍に譲りますが、例えば、記憶には下記の7つの種類があるという話。

1)短期記憶
・Sensory Memory(感覚的記憶)…数秒レベルでしか記憶できない
・Working Memory(使える記憶)…分単位の短期記憶

2)長期記憶
Explicit Memory(明示的記憶)
・Semantic Memory(意味的な記憶)…事実や概念などを司る記憶
・Episodic Memory (挿話的な記憶)… 出来事や経験などを司る記憶

Implicit Memory(暗示的記憶)
・Habituation(慣れ) + Sensitization(鋭敏化) 
・Priming(先行刺激)… 無意識的な処理
・Emotional(感情的)… 恐怖体験など
・Procedural(手続き的)… スキルや習慣
・Somatic (身体的)… 梅干しを食べたら、唾液が出てくるなど

話している内容を、相手のどの記憶に収納してほしいかによって、話し方を変える必要があり、その話し方も解明されているそうです。

また、人の行動変容を促す3つのステップとして
1)Learn
2)Remember 
3)Do
をあげており、 例えば、1)のプロセスでは手法としてストーリーテリングがあげられ、感情や情景を、事実と紐づけながら話すことで、ある一つの事実(知識)を複数の記憶に収納することができるため、長期記憶に残りやすく、学ぶ際の理解が早まるという話がありました。

また、最も効率よく脳が学ぶ手法として、一番はじめに成功例(お手本)を見せること、学べたと思えるまでVYやテクノロジーを活用して、何度でもそのお手本がみられるようにすること、という話も。具体的な事例も数多く紹介されていました。

効果的なチームにおける心理的安全と信頼の神経科学

M210 – The Neuroscience of Psychological Safety and Trust in Effective Teams (1/2)

ニューロサイエンス(神経科学)の近年の研究をもとに、高いパフォーマンスをあげるチームにおける心理的安全性や信頼関係の重要性と、それらを高めるための方法について紹介したセッション。

  • チームメンバー同士の信頼関係(trust)が増すほど、チームのパフォーマンスも高まることが明らかに
  • 信頼(trust)の定義は、『他者が脆弱性を受け入れるための動機や意欲に不確実性があるにも関わらず、他者に前向きな期待を抱くことを含む(Rousseau, Sitkin, Burt & Camerer ,1998)』
  • チームに心理的安全性と相互の信頼関係が醸成されると、脳内に神経伝達物質のオキシトシンが合成、分泌され、それがメンバーのエンゲージメントや幸福感、さらにイノベーションやチームのパフォーマンス向上等に良い影響をもたらす
  • 人は、同じチームに属する人に、より共感する

といった話がありました。

心理的安全性とは何か?どう育むか?

TU407 Psychological Safety — What Is It ? How Do You Cultivate It ?

心理的安全性の重要性や、職場で心理的安全性を高めるための方策について、専門家のパネルディスカッションを通して学ぶセッション。心理的安全性の大家である、ハーバードビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソン氏が登壇したことで注目を集めました。

  • 心理的安全とは、「声を上げる(Speak Up)」ことができる環境をつくることであり、それは単に仲が良いということではなく、より率直にものが言える状態をつくることである
  • 心理的安全には、「共感(Empathy)」「好奇心(Curiosity)」「相互信頼(Mutual Respect)」や“私は知らないと言えるマインドセット(I don’t know mindset)”などが不可欠である
  • 心理的安全性を高めていくためには、自分たちの目的(Purpose)や使命(Mission)を示すことが重要。目ざす方向性を共有することで、心理的安全が築かれる

といった話がありました。また、心理的安全性を高める上で、良い質問(Good Question)の重要性についても触れられていました。

来年の「ATD2020」は5月17日から20日に、コロラド州デンバーで開催されます。
詳細はこちら(英文になります)。

PFCでは来年もラーニングチームを組んで参加予定です。
どうぞお楽しみに!