ATD2019公開報告会レポート(Part 2)

ATD(Association for Talent Development)は、人材開発や組織開発の分野に従事する人のための世界最大の会員組織です。毎年開催されるICE(International Conference & Exposition)と呼ばれるカンファレンスは 4日間に渡り、基調講演の他300を超えるセッションが開催され、世界各国から1万人近い参加者が集います。まさに世界中の人材開発・組織開発の英知が結集される場です。

PFCでは毎年このATD-ICEに、ラーニングチームを組んで参加し、組織開発や人材育成の最先端事例やプログラムを持ち帰っています。この記事では、帰国後東京で行われた公開報告会のサマリーをお届けします。

Part 1はこちら

Training Delivery & Instructional Designのトレンド

「Training Delivery & Instructional Design」の分野では、キーワードとして「ストーリー」「習慣」「パーソナライズド・ラーニング」「脳科学」の4つが挙げられます。
わかりやすい話には「ストーリー」があります。オプラ・ウィンフリー氏の基調講演にもあったように、さまざまな人のストーリーを聞くことで、そこに自分を投影し、さまざまな気づきが生まれます。こうしたストーリーテリングの手法は、研修においてもますます活用されるようになっています。  
「習慣」は、これまであまり出てこなかったキーワードです。背景として、AIやロボティクスの導入が考えられます。従来、人がやっていたルーティンワークや手作業を、人に代わってAIやロボティクスが行うようになることで、これまで習慣化されていた行動が今後は不要になり、新たな習慣を身につけることや、やり方が変わることで習慣を変えることへのチャレンジが必要になってきているのです。  
そして、去年あたりから少しずつ使われる機会が増えているのが、「パーソナライズド・ラーニング」です。全員に同じ研修を提供するのではなく、それぞれの人にあった研修を提供していくことの必要性が高まってきているということです。そして、その作り込みの方法についても、インストラクショナルデザインにおけるニーズが高まってきているようです。  
「脳科学」を応用したセッションも増えてきています。参加者をひきつける、参加者の記憶に残す具体的手法も多く紹介されていました。

つながりのあるストーリーの選択と形成

ストーリーテリングの活用方法と作り方を紹介していたのが、「Story Training:Selecting and Shaping Stories That Connect」というセッションです。それぞれ異なる教訓が記された複数のカードをシャッフルし、そこから引いたカードの教訓を説明するために、下記の「詳細ストーリーの骨組み」を使ってストーリーを組み立てると、慣れていない人でもすぐにわかりやすい話が作れるようになるアクティビティが紹介され、とても実用的な内容でした。

また、「ストーリーを作るためのチェックリスト」も紹介されていました。

1.つながりのあるストーリー  
・テーマと実際の経験との間につながりを作っているか?  
・新しいアイデアが存在しているか?  
・その経験のつながりは学習者に影響を与えるか? 異なる見解を与えているか?

2.変化を見せるストーリー  
・学習者が変化しようとするポジティブな結果の例を提供しているか?  
・変化が自分自身の力によるものだと学習者に認識してもらえるか?  
・変化の仕方のガイドラインを提供しているか?

3.関連のあるストーリー  
・真実に基づくわかりやすく、核心のあるメッセージを提供しているか?  
・なぜそれが重要なのかをはっきりと伝えているか?  
・あなたのストーリーを伝えることが学習者を勇気づけるか?

4.楽しませるストーリー  
・そのイベントの中にユーモアやサスペンスが入っているか?  
・期待を裏切る要素が含まれているか?  
・驚きにつながる緊迫した観点が含まれているか?

単なるイベント研修に別れを告げ、高いパフォーマンスにつながるラーニングジャーニーへ

研修を単なるイベントで終わらせず、受講者の成長、ビジネスのパフォーマンス向上につなげるラーニングジャーニーにすることの重要性は、以前から指摘されてきました。そのための具体的な手法を紹介したセッションが「Goodbye Learning Events, Hello High-Performance Leaning Journeys」です。
セッションでは、
1.Learning Transfer Basics 
2.Knowledge Transfer 
3.Perception Change Transfer 
4.Other Topic Transferの4テーマに分けて具体例が紹介されました。
 
1.Learning Transfer Basicsでは、以下の図のように、研修をジャーニーにするためのいくつかの基本が紹介されました。
例えば、4.Involved manager(Before and after training)では、横軸を研修前・研修中・研修後、縦軸を上司・研修講師・参加者でそれぞれ3分割した表を用いて、それぞれのマスにおける関わりをチェックします。この中で、研修をジャーニーにするために最も重要になるのが上司の関わりです。研修前に参加者をいかに動機づけ、研修後にどうフォローするか。これらをしっかりと行うことで、研修効果は大きく変わってきます。

また、2.Knowledge Transferでは、研修で学んだ知識をそのままにせず、仕事で実践するためのアイデアやプログラム例などが紹介されました。具体的には、その知識が必要なところで容易に思い出せるようにするためのジョブエイドツール、気づきを維持するためのリマインダーやフォローアップ、研修での学びを仕事に活かしたベストプラクティスを共有するためのプラットフォームなどの仕掛けを作り込むことによって、研修受講者を次のステージへと上げることができることが説明されました。

Learning Technologyのトレンド

Learning Technology分野のキーワードは「AI」「AR、VR」「チャットボット」でした。これらのテクノロジーは、従来は抽象的な概念に留まっていましたが、今回はこれらのテクノロジーを導入して成果を上げている具体的な企業事例が紹介されていました。  
また、テクノロジーがL&Dの中に導入されることに伴い、L&D担当者も幅広い知識の習得と同時に新しい分野の専門家と協働する機会も増えつつあり、専門家たちとどのように協力し、仕事を進めるかといったセッションも登場しました。

チャットボットのケーススタディ│学習転移と評価の未来

「A Chat Bot Case Study: The Future of Learning Transfer and Evaluation」のセッションでは、チャットボットを活用したコーチングサービス(Coach M)の効果と課題について、製薬企業の営業部門への導入事例をもとに紹介されました。事例は、以下の図のように、集合研修と行動計画作りを行った後、約3カ月間の職場学習時間をチャットボットが支援するというものです。

  1. 職場で何か問題が起きた時に、その内容をチャットボットに入力すると、すぐにアドバイスを送り返してくれます。チャットボットには、過去の受講生のケースが蓄積されており、それらの中から、問い合わせに最も適した内容を回答する仕組みです。

この事例では、Coach Mの導入により、受講者の53%で個人目標が進捗し、また到達目標に到達した割合は、Coach Mを活用しなかった場合と比べて35%向上したことが報告されました。  
上司がコーチ役を担う場合、必要なタイミングで答えてもらえなかったり、あるいは答えが間違っていたりすることがあります。チャットボットであれば、過去の実績に基づいたフィードバックがタイムリーに受けられ、また、心理的に安全な場でやりとりが促進されこと、さらに、プロのコーチを雇うよりもはるかに安価であることがメリットとして説明されていました。ただ、一方で学習を機能させるためには上司のサポートが欠かせない、との指摘もありました。  
今後の課題として、さらなるエビデンスの蓄積とともに、電話コーチングやチャットボットを選べるようにしたり、Eメールによるフォローアップのオプションをつけることも検討しているとのことでした。  
また、KLMオランダ航空のサポートセンターの例も紹介されました。同社では、顧客からの問い合わせのほとんどにチャットボットが対応しており、チャットボットでは答えられない内容についてのみスタッフが対応しています。それにより、コールセンターの人員を減らすことができ、またスタッフも個々の対応をより丁寧に行うができるようになりました。新たな問い合わせに対応すればするほど、データが蓄積され、サポートセンターの効率も質も向上するという、チャットボット活用の理想的な事例といえます。

ゲームデザイナーのように考え、魅力的で有意義な研修を生み出す

学習にゲームの要素を持ち込むことで、楽しさや達成感などを通じた学習者の動機づけや学習内容の定着率向上が期待されているゲーミフィケーション。「Beyond gamification: Think Like a Game Designer to Create Engaging, Meaningful Instruction」というセッションでは、参加者がスマートフォンを使ってゲーミフィケーションのプログラムを実際に体験しました。プログラムは、2人の主人公とともに、行方不明になった教授を探しながらプログラム設計のポイントを学ぶストーリーで、以下の画像はその1シーンです。

最後に、プログラム設計の8つのポイントが紹介されました。

1)Story
2)Audience Input
3)Questions
4)Mystery/Curiosity(好奇心)
5)Characters
6)Action
7)Feedback
8)Fantasy

来年の「ATD2020」は5月17日から20日に、コロラド州デンバーで開催されます。
詳細はこちら(英文になります)。

PFCでは来年もラーニングチームを組んで参加予定です。
どうぞお楽しみに!