ATD(Association for Talent Development)は、人材開発や組織開発の分野に従事する人のための世界最大の会員組織です。毎年開催されるICE(International Conference & Exposition)と呼ばれるカンファレンスは 4日間に渡り、基調講演の他300を超えるセッションが開催され、世界各国から1万人近い参加者が集います。まさに世界中の人材開発・組織開発の英知が結集される場です。
PFCでは毎年このATD-ICEに、ラーニングチームを組んで参加し、組織開発や人材育成の最先端事例やプログラムを持ち帰っています。この記事では、帰国後東京で行われた公開報告会のサマリーをお届けします。
ATD2019で感じたトレンド
デジタル・トランスフォーメーションがどんどん進化して、具体的な事例が年々増えてきています。一方でもう一つの軸として「Humanity/ヒューマニティー」への注目も高まって来ました。テクノロジーが進化すればするほど、「人間がより人間としてその価値を出していくか」ということがテーマになって来たのだと思います。テクノロジーと競い合うというより、共存共栄。テクノロジーの分野と、人間であるからこそできることをうまく融合させて行くということです。
そのヒューマニティーの分野では
「信頼」
「レジリエンス」
そして、ここ数年取り上げられている
「心理的安全」
「エンパシー(共感)」
信頼を築くために重要視されてきている「フィードバック」
といった言葉がよく聞かれました。
また、去年まではほとんど聞かれなかった「習慣」と言うキーワードも気になりました。デジタル・トランスフォーメーションによって仕事のやり方が大きく変わり、人間によるこれまでのルーティーン・ワークが見直されてどんどんAIにとって代わられる中、人間は、自分自身のスキルをもう一度見直し、リ・スキルをする必要性が出てきました。自分がやり続けてきた単純作業や行動習慣を変えていかなければならない時に、どうやってその習慣を変えていけるか、あるいは新しい習慣をどうやって身に付けるかと言うことを考え直さなければならない時代になったのです。
ATD2019の全体像
ATD2019ICEは、300を超えるセッション、400を超えるEXPO、3名の基調講演で構成されています。基調講演の内容については記事にまとめていますのでこちらをご覧ください。
オプラ・ウィンフリー氏
セス・コーディン氏
エリック・ウィテカー氏
セッションの一覧はこちらに(英文サイトです)
個別セッションは400以上あり、全てをお届けすることはできませんが、以下にいくつかご紹介して行きます。まずは、「Management & Talent Development」をテーマに、3つのセッションについてです。
なぜフィードバックを恐れるのか、どのように修正すればよいか
Why We Fear Feedback, and How to Fix Itというタイトルのこのセッションでは、まずフィードバックにおける3つの役割が紹介されました。

この中でポイントになるのがひとつめの「SEEKERS」で、「積極的にフィードバックを取りに行きなさい」という意味合いです。自分を知り、客観的に自己を知ることの重要性を述べています。
ふたつめの「RECEIVERS」はどのようにフィードバックを受け止め、自分の中に活かしていくかと言うこと。そして良いフィードバックはチームの中に広めていこうと言う意味で「EXTENDRS」たることも意識しましょうと話されていました。
そしてこのフィードバックを行うための5つのアプローチとして紹介されたのが下記です。

- REBOOT
・明確で具体的な内容であること
・テーマを1つに絞る
・意図を明確にする(個人の成長、チームのパフォーマンス向上ために行う) - LAY THE FOUNDATION
・3つの役割を意識する(seeker、reciever、extender)
・信頼関係を築く
・信頼はフィードバックをドライブする
・3つのFを意識する (fairness、focus、frequency) - ADOPT GOOD PRACTICES
・リーダーがまずフィードバックを求める姿勢を示す
・フィードバックは一口サイズで短めに
・罰するためではなく前進、成長につなげる - GET NOTICING
・評価、判断するのではなく、気づきを促す - BUILD AN ARMY OF SEEKERS
・互いにフィードバックし合い、成長をサポートする
・チームを作る
フィードバックを評価ためのツールのようなものとして捉えるのではなく、目標達成や成長支援のためのものとしてとらえるマインドセットに変えていくことが重要と述べていました。特に上述の「seeker」のマインドセットが重要でそのためにはリーダー自身も率先してメンバーにフィードバックを求め、活かしていく姿勢が求められているという言葉が身につまされました。
このセッションの資料(英文)はこちらでご覧いただけます。
今すぐ信頼を築きましょう、さもなくば人材を失います
PFCのパートナー企業であるケン・ブランチャード社の「Build Trust Today or Lose Talent Tomorrow」のセッションでは上述の「信頼」が取り上げられ、「信頼の4つの要素」が紹介されました。こちらのセッションについて詳しくはブランチャード事業部からレポート予定です。
*ブランチャード事業部からのお知らせを希望される方は、こちらからお申込みいただけます。
レジリエンス|変化の時代においてエネルギーを再集中させる
英文タイトルは「Resilience: Refocusing Energy in Times of Change」。変化の激しい時代において、組織のレジリエンス(回復力)をいかに高めていくか?変化が従業員に及ぼす影響や、レジリエンスを高めるための働きかけ方についてのセッションでした。
レジリエンスとは、「耐久性」と「持続可能性」を兼ね備えたもので、単に“強靭な盾のようなもの”ではなく、変化を受け入れ、柔軟に対処し、前進し続ける力を指しています。変化に直面したとき、積極的に行動する人(Proactive)の割合は5-15%に過ぎず、大半は何もしない(Inactive:70-90%)か、反発する(Reactive:5-15%)。組織のリーダーには、変化に対して消極的、あるいは反抗的なメンバーに働きかけ、前向きに対処していけるよう導いていくことが求められるといった興味深い内容も紹介されました。
また、以下の3ステップの会話により、チームあるいは組織のレジリエンスを高めていくことができるとも。
・Clarify the reaction to change : 変化への反応を明確にする
・Redirect the conversation : 会話(の方向性)を変える
・Identify actions : 行動を特定する
こちらのセッションも英文資料がご覧いただけます。こちらからどうぞ。
その他のセッションについても随時レポートしていきます。お楽しみに!
また、来年ATD2020は5月17日から20日に、コロラド州デンバーで開催されます。
詳細はこちら(英文になります)。
PFCでは来年もラーニングチームを組んで参加予定です。
どうぞお楽しみに!