サッカーは、8割が頭の中で行われている

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第80回:サッカーは、8割が頭の中で行われている ~サッカーコーチを指導するコーチによる、サッカーのプロセスのコンサルティング~

いま、4年に一度のサッカーのアジアカップが行われていて、日本代表は開催国UAEの地で戦っている。ついこの間、4年に一度のW杯が行われたばかりではないか、などと言うことなかれ。サッカーファンは、また、わくわくドキドキの幸せな日々を送っている。そして、日本は無事に決勝まで駒を進め、明日(今日は2019年1月31日)の夜、カタールを相手にアジアの頂上決戦を行う。
今回の日本代表は、半年前のW杯で主役だった本田選手や長谷部選手は引退し、香川選手や岡崎選手などは選ばれておらず、世代交代を進めている途中段階にあるチームだ。しかし、どの試合でも見る者に一体感を感じさせるチームとしての強さは随一だし、大会を通じて選手達各人の成長にも目を見張るものがあり、実に見どころがある。
ただ、毎試合私が最も目を奪われているのは、実は、森保一監督の所作だ。テレビに映る彼は、いつも落ち着いた表情でピッチを眺めながら、時折、メモを取り出して何かを記しているのだ。試合中に、何に気付き、何を書いているのか、そして、それをどのように活用するのか、とても気になって仕方がない。これまで、このようにメモを取る監督はいなかった。
彼は、日本代表を率いて初めての大会でありながら、もうすぐ日本人監督として初のアジアカップを取ろうとしている。この監督の頭の中はどのようになっているのか、メモに書いてあることを通じて知りたいと思う人は、私だけではないだろう。

そのような折、最近、サッカーコーチ専門のコーチ、という人の存在を知った。(参考:Coach United Website) 倉本和昌氏という人で、高校卒業後、バルセロナ留学を経て、スペインのプロチームで育成の仕組みについて学び、日本人最年少でスペイン公認上級ライセンスを取得したという。帰国後は湘南ベルマーレや大宮アルディージャのアカデミーでコーチを務め、現在は「サッカーコーチを指導するコーチ」として活動を続けている。ちなみに、サッカーの世界では、監督は英語で「コーチ」と訳される。

彼によれば、サッカーにおけるミスの8割は、頭の中で起こっているのだと言う。

まず、「サッカーは、どういうプロセスで行われているスポーツなのか」を考えてみると、「知覚」、「分析」、「判断」、「実行」の4つのプロセスで成り立っている。従って、サッカーで起きるミスも、結局この4種類に分類される。
●知覚のミス
見えていない時。何を見なければいけないか分からない時。など
●分析のミス
何が最も重要か分からない時。など
●判断のミス
状況を正確に測るための材料が十分にない時。すべての判断材料を考慮していない時。など
●実行のミス
知っている知識に技術が追い付いていない時。タイミングを逃してしまった時。など

倉本氏がスペインで指導者ライセンスを取得するとき、「ミスの種類」を分析したことがあるという。知覚、分析、判断のミスが全体の80%を占め、ボールを蹴るといった実行のミスは、全体の20%しかなかったというのだ。
彼は言う。「つまり、ミスのほとんどがボールを蹴る前の、頭の中のミス。状況が正しく見えていたのか?この局面で最も重要なことは何か?他にプレイの選択肢があったのではないか? といった部分に働きかけていくことが、選手を向上させるために必要なこと。」
そして、「選手が何を見て、どう考え、そしてどのように判断したのかは、外から見ることはできない。それらは、選手の頭の中で行われているから。指導者が見ることができるのは選手のプレイ、つまり実行の部分だけだ。」と語る。

サッカーのプレイは、周りの状況を見て、考え、最適な判断をし、実行するというプロセスの中で行われている。指導者はまず、この「プレイのサイクル」を理解した上で、選手は何をしようとしているのか? を見ること・知ることがポイントになると、倉本氏は指摘をしている。
パスやドリブル、シュートのミスなどは誰が見ても一目瞭然だ。それを指摘するのは、指導者の重要な仕事ではない。倉本氏は「私はできるだけ、実行のミスについては指摘しないようにしている。それよりも、何をどう見て、どう考え、そのプレイを選択したのかという方が大事。」と語る。「キックをミスしたことは、本人が一番よくわかっている。そこで指導者から『なんでちゃんと蹴れないの』『しっかり蹴れ』などと言われたら、どんな気持ちになるだろうか。」

ところで指導者は、選手のプレイに対して、どこを見れば知覚、分析、判断のミスだというのがわかるのだろうか? それを知る方法は「質問をすること」だと言う。

例えば、知覚しているかどうかは、
●ボールを持っていない時には→スペース、味方、敵が見えているか
●ボールが転がってきている時には→ 敵がどこから来ているが見えているか
●ボールを持っている時には→ アドバンテージを持っている選手(フリーな選手)が見えているか
が基準となる。
この基準をもとに、「これは見えていた?」「こういうときはどこを見るの?」と質問をしていくことが指導者に求められることだと言う。

プロのサッカー選手が「成長していく」、ということの意味がよく分かった気がする。
全くの想像にすぎないが、森保監督も、メモを元に試合後、選手に対して、プレイの知覚・分析・判断に対する的確な質問をしているのだろう。
そうしてこのアジアカップ大会中も著しい成長を遂げた日本代表が、優勝カップを掲げる姿を早く見たい。