日大アメフト部のタックル騒動から考える、“心理的安全(サイコロジカル・セイフティ)”の重要性

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第73回:日大アメフト部のタックル騒動から考える、“心理的安全(サイコロジカル・セイフティ)”の重要性~「恐怖マネジメント」でもチームが勝ててしまうことこそ、最大の恐怖~

matsu_seminarこのところ、日大アメフト部の危険タックルの話題が尽きることがない。どの時間帯のニュースを見てもトップで扱われているし、ネットやSNSでもますます広がりを見せる一方だ。
しかもこの問題は、「勝負とフェアプレイ」「大学の体育会の在り方」といった観点に留まらず、「危機管理」や「危機対応」、「ガバナンス」や「コンプライアンス」、そして、「組織マネジメント」や「トップのリーダーシップ」など、組織人が関心を抱くトピックが実に様々な角度から論じられている。我々ビジネスパーソンにも、とても分かりやすい形で様々な論点を示してくれ、そして教訓を与えてくれている。

いま、どのクライアントの皆様とミーティングを持ってもまずはこの話題が振られる。そして、「この問題松村さんはどう思いましたか?」「大学やアメフト部はどのような組織開発をすべきですか?」といったことを聞かれる。私自身、とても興味をそそられた話題でもあるし、程度の差こそあれ、組織運営に関わる人達から同じような構造の似たような問題は至るところで見聞きするので、皆さんの組織開発に大いに役立つケーススタディと考え、時間のある限り真面目にディスカッションするようにしている。

しかし、実は、まだこれまで誰にも話していなかったけれども、考えれば考えるほど、この問題の本質ではないかと思えてくる論点がある。「この指導の仕方、つまり、“恐怖マネジメント”でもチームが勝ててしまう」ということこそ、最大の恐怖ではないか、という点だ。
日大アメフト部の前監督やコーチの指導の仕方は、様々な事実が明らかになるにつれ、ひどいことをしてきたものだと驚く。そして、誰もが、そんなやり方は「前近代的」だと非難する。
しかし、昨年このチームは、甲子園ボウルで優勝しているのだ。日本一になっているのだ。
結果が出る以上、このやり方からの脱却は容易ではない。
この指導の仕方、つまり、“恐怖マネジメント”から脱却するには、「このやり方以上の結果を出せるやり方がある」という指導者の信念しかない。

危険タックルをされた側の関西学院大学の監督やコーチは、そうした信念を持っているようだ。
関西学院大学が2018年5月26日に開いた会見で、報道陣から次のような質問があった。「日大の回答書には『危険タックルをした選手に闘志がなかった』という指摘がある。アメフトをやる以上、最低限の勇気や闘志は必要だと思うが、モチベーションを引き出すにはどのような指導方法が必要なのか。」
鳥内監督は、「声が小さいといったことはあったかもしれませんが、性格がありますから。そんなことまで強制して意味あるのか。その個性を尊重しながら、一番いいプレイを目指してやればいい」と、一人一人に合った指導でなければ意味がないと言った。
そして、小野ディレクターが次のように続けた。
「闘志は勝つことへの意欲だと思いますし、それは外から言われて大きくなるものではないと思っています。自分たちの心の中から内発的に出てくるものが一番大事ですし、それが選手の成長を育てるものです。その一番根源にあるのは、『フットボールが面白い、楽しい』と思える気持ちです。
我々がコーチとして一番大事なのは、選手の中に芽生える楽しいという気持ち、これは『ロウソクの火』みたいなもので、吹きすぎると消えてしまいますし、大事に、少しずつ大きくしないといけない。そっと火を大きくするような言葉も大事でしょう。内発的に出てくるものをどう育てるかが、コーチにとって一番難しい仕事だという風に思っています。」
指導者がこうした信念を持つチームが、次々と結果を出していくしか、本当に変わっていく方法はないのではないか。

何度かこのコラムでも書いたことだが、かつて、サッカー元日本代表監督を2回務めた岡田武史さんから、次のような話を聞いたことがある。
監督は経験からうまくいく方法が分かっている。だから、こうしろと指示する。選手たちは何度か指示に従ってみると点がとれるものだから、次第に監督の指示に従おうというマインドで埋めつくされていく。
しかし、岡田氏が指導者として目指す理想のサッカーは、「選手たちが目を輝かせて、ピッチの上で活き活きと躍動するようなサッカー」というものだった。にもかかわらず、Jリーグの監督時代にずっと抱えていた悩みは、選手が監督の“ロボット”と化してしまうことだったという。「どこかやらされている感があり、自主性や主体性を引き出すことは簡単ではなかった」らしい。何よりも監督の指示に従うことを優先させる、そんな選手を自分の指導が作ってしまっていたのか、と愕然としたこともあったという。
しかし、どうしたらそうでない指導の仕方で勝てるのかが分からず、しばらく監督業から離れたのだと言う。

信念を持て、と言われても、指導者も本当にこのやり方で勝てるのか、自信が持てない・自信が揺らぐことも少なくないだろう。
そのようなことを考えていた折、先日クライアント企業と共にGoogleを訪問してきたが、そのときに聞いた話を思い出した。この話は、恐怖マネジメントではないやり方で勝てるのだ、という信念を持とうとする指導者の背中を押すことになるのではないかと思うので、共有したい。

※Googleの記事は次のリンクを参照ください:www.peoplefocusconsulting.com/clients/cases/pca-2/

Googleは、ご存知のように様々な 事象を“データ”を使って証明することに長けた企業だが、2年ほど前のGoogleの社内調査結果「完璧なチームはいったい何が違うのか?」がNew York Timesに掲載され、世間の注目を集めた。
Googleがデータ分析の末にたどり着いたのは、完璧なチームに共通して見られたパターン=「心理的安全(psychological safety)」という概念だ。「心理的安全」とは、個人間の信頼と相互尊重があること、つまり、自分がチームに受け入れられており、安心して話すことができる感覚を意味する。
Googleではこの結果から、現在マネジャーに求めていることはたった1つだという。それは、心理的な安心感(psychological safety)のあるチームを作るということだ。
私もGoogleでこの話を具体的に聞いて、様々な企業の組織開発のご支援をすることにますます邁進しようと自信を強くした。