『リーダーシップ開発の新潮流』

2017年9月に開催されたセミナー「メンバーの可能性を引き出し、組織に変化をもたらす〜これからの時代に必要なリーダーシップとは」の内容をまとめたものです。

1.リーダーシップとは何か

リーダーシップ開発の新潮流について述べる前に、先ず、リーダーシップとは何か、ということを考えたい。リーダーシップについて学問的に研究されるようになったのは20世紀に入ってからだが、既に様々な学説が唱えられている。近年、世界に影響力を及ぼしてきたリーダーシップ論としては、変革リーダー(ジョン・コッター)、EQ リーダーシップ(ダニエル・ゴールマン)、サーバント・リーダーシップ(ロバート・グリーンリーフ)、賢慮型リーダー(野中幾次郎)、第5水準リーダー(ジム・コリンズ)、オーセンティック・リーダー(ビル・ジョージ)などがある。
ハーバードビジネススクール名誉教授のジョン・コッターが著した「リーダーシップ論 いま何をすべきか」において、リーダーは、①針路を設定し、②メンバーの心を統合し、③動機付けと啓発をすることで、変革を推し進める、と定義されている。出版から既に17年経っているが、今でも通用する本質を突いたリーダー論であると言える。本質を踏まえた上で、さらに、これからの時代に必要な要素というものも考えていく必要がある。

2.今日のリーダーシップを考察するにあたって抑えるべき4点

今日のリーダーシップを考察するにあたり、2つの分野について考える必要がある。まず1つ目は、リーダーを取り巻く環境の変化、そして2つ目が、リーダーの調査・分析手法の変化である。以下に、それぞれの具体的な内容を見ていきたい。

(1)リーダーを取り巻く環境の変化
①VUCAの時代
今は、VUCA の時代、「先が読めない時代」であると言われる。このような時代には、組織は、アジャイル(俊敏、素早く)に仕事を進める必要がある。これまでの仕事の進め方といえば、最初に計画を作り込み、その精緻な計画にきちんと従って実行していくものであった。しかし、VUCAの時代には、計画を作っている間にどんどん状況が変化してしまう。そのため、完璧な計画を練り上げるのではなく、とりあえず走り始め、「やりながら学び、修正し、完成していく」という仕事の進め方が求められるのである。その際に、個々人が意識すべき点は、仕事をする中での学びを楽しむということである。試行錯誤の中で、うまくいく方法を発見し、それを次の仕事に反映させていくということだが、当然、失敗も起きる。しかし、失敗してもそこから学び、失敗を恐れずに挑戦を続けるという姿勢が、重要になる。
アジャイルな仕事の進め方でもう一つ大事な点は、個々人の学びを組織の中で共有し、組織として学習できるかどうか、ということである。つまり、「ラーニングオーガニゼーション」となることが、益々重要な時代になってきたと言える。
そのようなVUCAの時代におけるリーダーの役割はどうか。VUCA時代以前のリーダーの役割は、組織のメンバーが計画通りに仕事を実行しているかどうかを監督・指導することだった。しかし、VUCAの時代になって、完璧な計画はなく、メンバーが試しながら学んでいくという状況では、それを後押しするような環境を作りだすコーチの役割が、リーダーに求められると言えよう。

②グローバル経営の時代
日本は、人口オーナスの時代に突入している。少子化により労働人口が減り、日本国内の市場も縮小していくため、早急なグローバル化が求められている。実際、多くの企業がグローバル化に向けて動き出しており、ピープルフォーカス・コンサルティングでも、グローバル化支援を数多く担当させて頂いている。その中で、特に気になることが、日本人の下で働く外国人社員の多くが、「上司が何を考えているのか分からない」あるいは「上司が私をどう評価しているか分からない」などのフラストレーションを感じているということである。
なぜこのようなことが起こるかと言えば、日本人と外国人とでは、コミュニケーションの方法が異なっているからである。日本人は、空気を読むなどのハイコンテクスト(High Context)なコミュニケーションが得意であるのに対し、多くの他の国の文化では、明確に言葉にして伝えるというローコンテクスト(Low Context)なコミュニケーションが主流であるため、齟齬が生まれるのである。そのため、国籍や文化の異なる多様な人々をリードするためには、言葉にして伝える、ローコンテクストなコミュニケーションを取り入れる必要がある。その際、双方が、1つの言葉に対して、同じ理解を持っていることが前提である。例えば、リーダーシップを発揮しなさい、と言う時に、言う側と言われた側のリーダーシップに対する理解が合致している、つまり、リーダーシップについての共通言語を持っていることということだ。
この点において、日本企業と欧米の外資系企業では、温度差が大きい。例えば、リーダー教育を行う際、欧米企業では、全世界で一斉に同じプログラムを取り入れ、共通言語を構築する。一方、ほとんどの日本企業では、日本本社の担当者は「海外拠点の研修はそれぞれに任せています」と言い、共通言語を作る重要性の認識がないように見受けられる。
リーダーだけではない。メンバー側も、リーダーに対してどんな支援や指示が必要かを、言葉で明示することが求められる。したがって、日本と海外、さらにはリーダーとメンバーの間で、リーダーシップに関する共通言語を持つことが効果的なのである。

(2)リーダーの調査・分析手法の変化
①神経科学(脳科学)による検証
近年、リーダーの調査・分析手法が変化してきているが、その中の1つが、神経科学、ニューロサイエンスの発展によるものである。人はどう学習し、成長するのか、どうするとやる気が上がるのか、ということが、科学的に解明されつつある。
そのような中、特に欧米において、ノーレイティング(人事評価廃止)の動きが台頭している。例えば、期末にA~Eの5段階評価をするようなやり方では、社員のやる気が下がってしまうということが、神経科学的観点から明らかになったと言う。それを受け、そうした評価の方法を止めてしまうというノーレイティングの動きが進んでいる。
評価をするかしないかはさておき、社員のやる気を保持するためには、リーダーとメンバーの間での頻繁なコミュニケーションが、今まで以上に重要になってきていると言える。VUCAの時代における仕事の進め方は手探りなのだから、不安も多い環境である。そのため、リーダーは、メンバーの不安感を受け止め、士気を上げ、効果的に仕事を進められるよう、緊密にコミュニケーションを取って、フィードバックを与えたり、悩みを聞いたり、アドバイスをする必要があると言えよう。

②ピープルアナリティクス
2つ目の新たなリーダーの調査・分析手法が、ピープルアナリティクスである。これは、ビッグデータ時代ならではの手法だが、社員の行動データなど大量のデータを統計学的に処理することで、効果的なリーダーシップやクリエイティブな人材を輩出する職場の在り方などを導き出す。データ技術に優れているグーグルやフェイスブックなどでは、既に、ピープルアナリティクス部という専門部署を設けている。
冒頭にリーダーシップ論は様々あると言ったが、従来のリーダーシップ論はそれを語る人個人の経験則に依るものであった。今後は、経験則よりも寧ろ、データ検証や前述した神経科学を活用して検討されるようになるだろう。そういった意味でリーダーシップ論は今、大きな変革地点にきていると言える。
ピープルアナリティクスを積極的に取り入れているグーグルでは、社内で、成功するチームに必要な要素をデータ検証した。その結果、「優れた技術を持つメンバーが少数いれば成功する」という初期仮説は覆され、「心理的安全性」(Psychological Safety)が重要であることが明らかになった。「心理的安全性」とは、まず第1に、チームの中で誰もが安心して発言できるということ、そして第2に、メンバーがお互いに共感し合えるということである。共感し合えるというのは、同調する、同意見を持つということではなく、相手がどんな気持ちや感情を持っているかを察することができるということである。この2つが実現すれば、「心理的安全性」が担保され、チームの成功率が高まるというのである。
さらに、このような成功するチームを率いているリーダーの共通項として、データ分析により明らかになったのが、以下に示す「成功するチームのリーダーに必要な8つの属性」である。これまで挙げてきたポイントと重なる部分が多いことが見てとれるだろう。

成功するチームのリーダーに必要な8つの属性
1.良いコーチである
2.チームに権限移譲し、マイクロマネジメントをしない
3.チームのメンバーの成功や満足度に関心や気遣いを示す
4.生産性・成果志向である
5.コミュニケーションを円滑にし、話を聴き、情報は共有する
6.チームのメンバーのキャリア開発を支援する
7.チームに対して明確な構想・戦略を持つ
8.チームに助言できるだけの重要な技術スキルを持っている
出所:『ワーク・ルールズ!』ラズロ・ボック著、東洋経済新報社

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