「日本と中国をチームにする」中国ビジネスの真価とは

「日本と中国をチームにする」中国ビジネスの真価とは

yasuda組織開発・人材開発を手がけるピープルフォーカス・コンサルティング(上海)は、個別のニーズに対応した研修に加え、中国系企業幹部の日本へのインバウンド研修などユニークな取り組みで成果を上げている。さらに今年からは中国の教育格差解消を目指した、CSV(Creating Shared Value)事業にも乗り出した。CSVとは、「本業を通じて社会課題の解決に取り組むこと」。同社事業は、新たなステージを切り開きつつあるといえる。「日本と中国をチームにする」をビジョンに掲げる安田太郎董事・総経理に聞いた。

1. 「ドアを蹴破る生命力」を

ピープルフォーカス・コンサルティングは1994年に創業(東京)。ファシリテーション(会議やプロジェクトなどの組織活動を円滑に進め、成果が出るよう支援するリーダーシップスタイルのひとつ)をベースにリーダー育成、チームビルディング、グローバル化の促進、組織変革の支援、理念の浸透の5つの領域でコンサルティングを手がけている。中国現地法人のピープルフォーカス・コンサルティング(上海)は14年に設立され、現在は日本・中国・東南アジア・北米・南米・欧州など14カ国でサービスを行っている。

──中国事業の概況を。
「現在、中国では3つの領域で事業を行っている。第1の事業領域は、日系企業の現地化促進。日本人駐在員向けの「リーダーシップ研修」や中国人管理職向けの「日系企業におけるリーダーシップ研修」などを提供し、売上高の6割を占める主力事業となっている。第2の領域は、中国系企業向けのコンサルティングで、特に日本へのインバウンド研修に注力している。2016年から本格始動し、既に売上高の4割を占めるまでに成長。新たな事業の柱に育ちつつある。そして第3領域として、中国国内の教育格差問題に主眼を置いたCSVにも乗り出した」

──第1の事業領域について。研修の内容は。
「当社では、前述の通り研修やワークショップ、アセスメント、人事制度改定の支援を通じ、中国ビジネスのカギを握る「ひと」の強化と「組織」の健全化を行っている。とりわけ、①現業での行動特性 ②本質的にもっている行動特性 ③強いプレッシャーの下で表出する行動特性──の3つの側面(ペルソナ)から、1人1人の特徴を分析し、さらに各リーダーが率いる組織やチームの効果性を定量的、定性的に分析し、研修内容をオーダーメイドしていく手法が当社の得意とするところ。分析に用いるのは、Lumina Sparkと名づけられた行動特性調査と当社が独自に開発したTeam Effective Surveyという日本語、中国語をはじめ、英語、タイ語、インドネシア語など多言語で対応可能な調査ツール。Lumina Sparkは、各自の行動特性を4色8側面で表現し、キャラクターを色として可視化する。また、マネジメント層の現地化に伴いニーズが高まっているのが、アセスメントセンター。実績ではなく潜在能力を評価する手法で、仮に今の実力で1~2段階上の職位についた場合、どこまで通用するかを分析し、個別の育成プランを設計している。
リーダーシップ研修は現在、日本人向けも中国人向けも、それぞれ月10回、各回20人程度の需要があり、今後はさらに中国全土に広げる」

──中国ビジネスの心構えとして、“あきらめずドアを蹴破る”生命力を挙げている。
「ヤオハン在職中、中国駐在の日本人同僚たちが日本では見せない顔で生き生きと仕事をしているのを見て、中国で働くことに憧れた。その後、プライベートでの留学、日系人材会社での仕事、現在の仕事、と経験を重ねる中で見えてきたのは、“中国とは、生き生きしていないと生き残れない社会”ということだった。中国ビジネスで求められるのは、用意されたレールや道のない場所で、自分で道を創り出すパワー。進みたい方向に鍵のかかったドアがあり、何度ノックしても開かなかった場合、それが本当に“生きたい”方向であれば蹴破ってでも道を開く生命力。換言すれば、中国勤務はそうしたパワーを自分の中から引き出す絶好の機会ともいえる。大切なことは、そうした生命力は誰もが本来持っていて、そのスイッチを入れられるのは本人だけ、ということ。当社の研修は、スイッチを入れる支援をするためのものでもある」

2. 「創業者たちの国」に学ぶ

日系企業向け研修事業とは一転して、第2の事業領域である中国系企業向けの組織開発コンサルティング(例:日本でのインバウンド研修)、第3の事業領域であるCSVは、いずれも中国経済の本丸を対象としたサービスだ。とりわけ第3の事業領域は中国社会に深く踏み込んでいく内容だけに、一般的なコンサルティング事業とは異彩を放っている。

──インバウンド研修に乗り出したきっかけは。
「中国人創業者や経営者と交流する中で、“日本企業を訪問し、経営幹部に会って学びたい”というリクエストをいただいたのがきっかけだった。長寿企業を数多く輩出している日本の風土、わけても匠の精神やプロフェッショナル意識には学ぶところが多いと考える中国系企業が増えている。当社は、日本語・英語・中国語等の多言語に対応できるコンサルタントで構成されており、当社ならではのプログラムを提供できることが強み。このようなことのできる企業は日中とも数は少なく、当社が貢献する余地は大きいと判断した」

──インバウンド研修では、どのようなことを。
「例えば全国展開している大手英語スクール運営企業からは、教室ごとのオペレーション品質の差を解消するため、マニュアルと仕組み化でオペレーションを改善した日本の大手企業に教わりたい、との依頼をいただき、そうした変革を主導した経営者からの講演や対話会、店舗見学をアレンジ。また、外食産業や人材サービス会社には、同業者の現場などを訪問し、自動化や人材育成などの手法を学ぶプログラムを提供した。いずれも、研修プログラムの設計、企業訪問アレンジ、研修の実施、通訳、アテンドを当社が手がけ、ビザや交通機関、宿泊・食事や旅行傷害保険の手配・ガイド等では日本の大手旅行代理店、日本文化体験や宿泊・食事の提供では日本のリゾート運営大手の協力を得て、3社連携で実施している。16年4月に事業を開始し、これまで4件の研修を実施した。17年も現時点で8件ほど受注している」

──研修前後での参加者の変化は。
「研修に参加した中国系企業の幹部たちは共通して、日本企業が高品質の業務を実現するため、日常の意識づけ・習慣づけから徹底していることに強い感銘を受けていた。“日本企業の凄さは画期的な何かにあるのではなく、日々の基本の積み重ねが大きな違いを生み出している”というのは、中国系企業にとって新鮮な発見だったようだ。一方、研修を受け入れた日本企業側からも、中国人参加者が必死でノートを取りながら熱心に学ぶ姿に、“中国人に対する印象が大きく変わった”といった声が聞かれた。インバウンド研修は、中国人参加者のみならず、関わった日本人にも大きな変化が現れる。」

──第3の事業領域は、非常にスケールが大きいが。
「当社は、世界平和への貢献を使命とし、一貫して売上高の1%を途上国支援など世界平和に向けた活動に充てている。私自身の中には、“中国人が自らの手で自分の未来を切り開くことに貢献したい”との想いがある。中国の都市部には、農村からの出稼ぎ労働者が1億6821万人、その大半が非正規労働者で、企業から社会保険を受けている人は全体の15%程度。労働契約書自体が存在しない人も全体の62%にのぼる。そういった方に就労と生活の安定を提供できるのは各地区にある人材派遣会社だが、派遣社員への事前教育が不十分なため、顧客企業からのクレームや高い離職率に悩まされている。さらにスマートフォンの発達により、誰でも簡単に好きな時間にデリバリーの仕事で日銭を稼げるようになり、多くの若者が企業に縛られてまで将来の社会保障を確保するより、目先の自由を謳歌できる仕事を選択しがちだ。中国政府も、こういった若者が高齢になったとき、スキルも知識も持たず、社会保障もない状態になることを重大な問題としてとらえている。ここに、当社が研修事業で培ったノウハウ、さらにファシリテーションを役立てる道を見出した」

──具体的には。
「中国の人材サービス会社、ITプラットフォーム企業と連携した、派遣社員向け基礎研修の講師育成事業。講師は派遣社員の中から、優秀かつ意欲のあるメンバーを選抜して講師に登用、専門スキルで収益を得る機会を確立する──といったもので、このサイクルを回すことで、将来的には自立して講師ビジネスができる創業人材の輩出にも結びつけていく」

──そうした事業を志したきっかけは。
「これは大手火鍋チェーンH社の創業者から触発された。2012年にH社の優れたおもてなしサービスの評判を聞いて、ひとりの食事客として店を訪れたとき、入社3カ月の見習い店員が、客のひとりひとりに真摯に向き合ったコミュニケーションを取っていることに驚き、H社の人づくりに強く興味を抱いた。あらゆるツテで接触を試み、3年かけて創業者に面会できたとき、自らも就業の機会、教育の機会に恵まれず苦しんできた創業者たちが、“農村戸籍の人たちに、自ら人生を切り開くお手伝いをする”との使命のもとで同社を経営し、ビジネスを通じて社会課題に取り組んできたこを知り、私自身の視野が開けた」

──中国系企業から学びを得た。
「例えば松下幸之助氏も、丁稚奉公時代に培った人格が創業者・経営者として大成する大きな礎になったと聞く。日本の経済大国化を牽引した創業者たちの多くは亡くなっており、一緒に働いた経験を持つ方も少なくなっている。一方、中国は今まさに創業者たちの時代。中国系企業の創業者たちと交流して分かったのが、ビジネスのスキルやセンスのみならず、人格面でも突き抜けているということ。人間に対する深い洞察力もそのひとつで、前述の火鍋チェーンのマネジメントも“人の性(さが)”の徹底的な研究の上に成り立っている。中国人経営者、幹部社員たちの多くが、日本から学びたがっている。日本と中国が一つのチームのように交流し、学びあえば、巨大な価値を提供し合えるはず。当社も第2・第3の事業領域で得た知見を、第1の事業領域に還元することで、日中両国に貢献する事業サイクルを生み出していきたい」