藤井聡太四段の活躍から妄想した、サッカーへのAI(人工知能)の導入(松村卓朗)

【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第64回:藤井聡太四段の活躍から妄想した、サッカーへのAI(人工知能)の導入~AIが導き出す“最適解”の凄さと限界~

matsu_seminarサッカーの話ではなく将棋の話から始めるが、突如現れた14歳の将棋の天才が、将棋界にとどまらず、世間の話題を一手に集めている。残念ながら昨日、30連勝がかかっていた対局には敗れてしまったが、藤井聡太四段の今後の活躍には、彼が作った前人未踏のデビュー以来29連勝という大記録を引き合いに出すまでもなく、何ら色あせることなくますます多くの人が大いに期待を寄せている。
藤井聡太四段の強さの秘訣は、テレビや新聞が色々と分析しているようだが、彼の打ち手とAI(人工知能)との一致率が極めて高いということがクローズアップされている。29連勝中、彼の打ち手の実に6割が、AIがはじき出した「最善手」と一致するのだという。
こうした報道を聞いて、既に将棋の世界では、AIがはじき出す手が最も優れているということが前提となっていて、“最適解”が存在しているということに、私は少なからず驚いた。
先日、現役最強の棋士の一人である佐藤天彦名人も、AIポナンザに負けた。AIの強化の仕方を聞いて、それもそうだろうと思った。ポナンザには、まずもって、これまで人間が行った主たる公式戦のすべての対局の棋譜データが入っているという。そして、さらに驚くことには、AI同士で既に700万局の対戦をして、その経験値を上げているのだという。人間がその経験値を積もうと試みたなら、1日10局ずつ毎日行っても、2000年かかる。
従って、AIは人間の経験値をはるかに超えているので、人間が考えもしないような極めて創造的な一手も、たくさん生むと聞く。人間がプログラムを書くのではなく、AI自体が経験学習する「ディープラーニング」という方法を得て、既にAIは、将棋の世界では“神”の領域に達しつつあると言っても過言ではないだろう。
AIポナンザの開発者ですら、なぜ強いのか、どのようにして強くなっているのか、もう分からないのだという。AIが導き出す“最適解”は、ブラックボックスから生まれているのだ。

“最適解”を導き出せるAIは、様々な領域に応用されつつある。
例えば、タクシーがこの瞬間、どこにいたらどの道を走れば顧客をより高い確率で拾えるのか、ということは既に実用化されて、経験と勘で動いていたタクシードライバー達の売上も数10%向上したと聞く。
人事の世界にも応用される領域が生まれていて、例えば、定期面談で話す内容から、退職のリスクが割り出せるという。「もう辞めてやる」といった分かりやすい表現よりも、一見人間にはそうと分からない表現の中に、退職リスクが極めて高いケースがあることが分かっている。
それでは、こうした“最適解”を導き出せるAIを、サッカーの世界に応用できないかと妄想してみた。
もちろん、これまでの膨大な対戦データをAIに覚えこませて、また、AI同士の対戦を繰り返すことも通じて、サッカーにおいても、ある局面の“最適解”を導き出すことは容易にできるようになるのだろう。この局面においては、ドリブルを選択するよりも、右方向へのパスの方が、より得点につながる可能性が高い、この局面においては、パスよりもシュートを選択する方がよりよい判断だ、といったことが、AIを活用することで分かるようになるはずだ。

しかし、AIが導き出す“最適解”は、既に開発者にすら説明がつかないもので、「ブラックボックスから生まれている」という事実が、どうしても引っかかるのだ。
かつて、元日本代表監督を2回務めた岡田武史さんから、次のような話を聞いたことがある。
監督は経験から、「この局面では外にパスを出して外から攻める方が点が取れる」ということが分かっている。だから、「外にパスを出せ」と指示する。そして、選手たちは何度か指示に従ってみると点がとれるものだから、今度は監督の指示に従おうというマインドで埋めつくされていく。
岡田氏が指導者として目指す理想のサッカーは、「選手たちが目を輝かせて、ピッチの上で活き活きと躍動するようなサッカー」というものだった。にもかかわらず、Jリーグの監督時代にずっと抱えていた悩みは、選手が監督の“ロボット”と化してしまうことだったという。「どこかやらされている感があり、自主性や主体性を引き出すことは簡単ではなかった」らしい。
例えば、選手にある指示をしたら、チームが負けているにも関わらず、「俺は監督の言う通りのことをやっていますよ」という顔をして、ベンチをちらちら見てアピールしてきたと言う。チームを勝利に導くために自らが今何をすべきかを考えることよりも、監督の指示に従うことを優先させる、そんな選手を自分の指導が作ってしまっていたのか、と愕然としたこともあったという。Jリーグで優勝を積み重ねたところで、選手の主体性や自発性を最大限まで引き出すことは出来なかった。それが、岡田をしばらく監督業から遠ざけていた最大の理由だったと語っている。

AIがサッカーの世界に導入されて、ブラックボックスで理屈は人間には理解できないけれど、「この通りにやれば勝てる」と言われてそれに従って勝っても、まったく面白くないだろうな、と思うのは私だけだろうか。
そう言えば、何度か“最適解”という言葉を書いてきて、はっとした。かつて、戦略コンサルタントをやっていて、コンサルタントが導き出す“最適解”通りに実行できれば成果が出るはずだと思っていたが、なかなかそうはいかない。そもそもコンサルタントなる第三者が導き出した“最適解”が「ブラックボックス」のように見えている以上、実行への意欲など湧かないのだ。組織に属する者が自ら解を導き出し、そして皆が納得して一丸となって実行するからこそ、成果が生まれるのだ。
経営には“最適解”があるのではなく、“納得解”があるのだ。そう考えるようになって、戦略コンサルタントではなく、組織開発コンサルタントに転身したという原点を思い出した。