【ジャンゴのちょっといい話:田岡純一】ATD2017レポート

ATD2017レポート:今年の人材開発、組織開発の潮流は?

2017年5月21日~24日の4日間にアトランタ(米国)で行われたATDに今年も参加して来ました。今回は、先日東京で行われた報告会の内容のサマリーをご紹介したいと思います。
*マイクロ・ラーニングに関する部分は一緒にATDに参加された永見昌彦さんによるレポートです。

元々はASTD(American Society for Training & Development)という名称だったこの団体が、ATD(Association for Talent Development)に改称したのが2014年。その裏には、ビジネスのグローバル化が急速に進む中、グローバルコミュニティー全体で組織開発や人材開発、能力開発を考える必要性が高まっていることや、私たちの仕事がもはや「トレーニング」という言葉では十分に表現できないといった背景がありました。カンファレンスのテーマもここ数年は「Content, Community, Global Perspectives」と、組織開発や人材開発をより広義に捉え、テクノロジーや脳科学、心理学など様々な分野のセッションもふんだんに盛り込まれてきました。
以下に、まさにATDという名前にふさわしい、英知と刺激に満ちた数多くのセッションやキーワードからいくつかご紹介しましょう。

ラーニングカルチャー

1498551336375ATD2017のキーワードをよりよく理解するために、まず、昨年の大きなトレンドであった「ラーニングカルチャー」をおさらいしておきましょう。
ATD2016では、業績の良い会社は、個人や組織が自ら学習する文化(ラーニングカルチャー)があり、その文化をどうやって作るかということがテーマとして多く語られていました。

ラーニングカルチャーを作るためのポイントは下記のように整理できます。
1)学習性を高めるマインドセットを形成する
・ 上司:コーチングやパフォーマンスレビューの重要性を認識する
・ 部下:自己肯定感を持って、自身の能力を生かそうとするマインドを醸成
・ 教育担当者:プログラムありきではなく、学習者ありき(Leaner based)で考える

2)研修を「イベント」ではなく「旅」にする
・学習の7割は業務を通して行われ、研修で学ぶ部分は10%しかないという数字もあ り、研修を単発のイベントではなく、日常業務と組み合わせながら「旅」として設計することが重要

3)「信頼」と「安心」のある職場を作る
・恐れが学習と協働の阻害要因になる。
・学びを楽しみ、失敗を恐れず安心して発言できる、挑戦できる職場を作ることが重要。

VUCA の時代とレジリエンス

ATD2017では、この「ラーニングカルチャー」を具体的にどう醸成するかということに焦点を当てたセッションが多かったように思います。
その中でよく聞かれた言葉のひとつが、「『信頼』と『安心』のある職場を作る」ことにもつながる「レジリエンス」。
「レジリエンス」は回復力、復元力といった意味合いで、打ちのめされるような出来事がたくさんあるが、それを乗り越える力をどう養うか、といったことが盛んに語られました。
世界的なトレンドの指標ともなっている今年のATDの3つの基調講演が、いずれも「メンタル」や「マインド」にフォーカスされていたことも印象的でした。
3つの基調講演については、すでにインターネットでも動画を始め、様々なレポートが発信されているので、そちらをご覧いただければと思います。

サイコロジカル・セイフティ(心理的安全)を確保する

Googleは昨年自社内でチーム効果性調査を行い、「パフォーマンスの高いチームでは心理的安全性(安心して発言できる、失敗を恐れずチャレンジができる環境)がある」という結果を発表しています。
Using Neuroscience to Learn Your Triggers and Biases for Psychological Safety (M102)というセッションでは、この調査結果と共に、サイコロジカル・セイフティを実現するために必要な6つの要素がSAFETYモデルとして紹介されていました。
・Security(安全)
・Autonomy(自律)
・Fairness(公平)
・Esteem(尊重)
・Trust(信頼)
・You(自分自身)
職場における心理的安全性や信頼関係を構築していくことが、個人の成長やチームのパフォーマンス向上のカギを握ることが脳科学及び心理学に裏付けされ明らかになったことで、このテーマでの事例は今後も増えていくのではないでしょうか。

プログラムを常に変化させていく

「アジリティ」「アジャイル」という言葉も頻繁に聞かれました。「素早い」「俊敏な」といった意味合いのこの言葉は、もともとは技術系のプログラム開発での用語でしたが、ここ数年、人材開発の分野でも用いられるようになりました。「アジャイル」には色々なやり方がありますが、変化の激しいVUCAの時代にいかに迅速に物事に対応していくのか、という観点から、
・ 最初から完璧を求めず
・ 短い開発期間でリリースし
・ 実施しながらテスト&ラーン(Learn)で開発を進める
といったやり方で研修プログラムを作り込んでいきます。
具体的には「マイクロラーニング」という形でアジャイルに開発するケースが非常に多くなっています。

注目を集めたマイクロラーニング

ATD代表のトニー・ビンガム(Tony BINGHAM)氏も講演で何度も「マイクロラーニング」に触れました。すでに米国では38%の企業が導入し、41%の企業は近い将来導入すると言われているそうです。

マイクロラーニングの定義は様々ですが、様々なセッションでの下記のような定義が参考になるのではないでしょうか。

・ 限定された成果を達成するために役立つ、フォーカスを絞った「ちょうど良いサイズ」のコンテンツ」(TU302のセッションでの定義)

・ 「5分以内でできる何か。例えば:
– 5分以内のビデオやEラーニング
– 5ページ程度のテキスト
– 標準サイズのインフォグラフィック
(W314のセッションでの定義)

マイクロラーニングのツールとしては、具体的には例えば、ブログ・動画・UMU*・シェアポイント・SNSなど多岐にわたりますが、大切なことは
・ 早くリリースする(そうしないと陳腐化してしまう)
・ リリースして終わりではなく修正する
・短いパーツ(Short Piece)を使って、パフォーマンス改善に貢献
といったことが挙げられます。

ラーニングカルチャーとも親和性の高いマイクロラーニングは、経験を形式知化してすぐに共有できるというメリットもあり、IBM社のYour Learningというデジタルプラットフォームや、Newport News Shipbuilding社の技術的なちょっとしたコツやハウツーをその場で共有、学習できる動画なども紹介されました。Cisco社は2019年までに研修の3/4を動画系に変えていくというのも興味深い数字でした。

トニー・ビンガム氏のセッションでは、マイクロラーニングを行うためのアクションステップとして以下の6つが挙げられていました。
1)Think forward(前向きに考える)
2)Think outside the classroom(教室外でのことを考える)
3)Be agile in your learning design(アジャイルに開発する=常に改善を行う)
4)Keep content short(コンテンツは短く)
5)Address technology and security needs early(早期にテクノロジーやセキュリティの必要性に対応する)
6)Get your leader’s support(上司のサポートを得る)

マイクロラーニングのコンテンツを作るには、まず個人の中にある情報やノウハウを形式知化する必要があり、これは「上司の背中から学ぶ」日本人は苦手とする作業かもしれません。しかし、マイクロラーニングの効果性や世界的な潮流から見ても、マイクロラーニングによる人材育成は、今後避けては通れない道の一つであることは間違いありません。

ATDのレジェンドが語るマネジャーの役割

ほぼ毎年、ATDにおいて最も人を集めたブースとして表彰されるケン・ブランチャード社ですが、今年も例年にひけをとらない人だかりでした。ATDそしてリーダーシップ論界でレジェンドと評されるケン・ブランチャード博士のトークセッションでは、2分に1回、聴衆を笑いの渦に引き込みながら、部下のパフォーマンスを上げるためのマネジャーの役割が紹介されました。ケンの開発した状況対応リーダーシップ理論を実践することで、マネジャーは、コーチングやパフォーマンスレビューを効果的に行い、ATD全体で力説されていた「『信頼』と『安心』のある職場を作る」ことにつながるのです。
たとえば、目標設定をするときのSMARTゴールモデルは広く知られていますが、部下のモチベーションをより重視するケンは以下のようにSMARTを改変し、聴衆の興味を大いに引いていました。

S = specific(具体的)
M = motivating(意欲的)*従来は「measurable(測定可能)」
A = attainable(達成可能)
R = relevant(関連性・適切さ)
T = trackable(追跡可能)*従来は「timebound(期限)」

以上、ATDのほんの一部しかご紹介できませんでしたが、「Machine Learning and AI: Will They End L&D as We Know It?」 のセッションの中での下記の問いで、このレポートを締めくくりたいと思います。

「私たちの人材開発の仕事/業務のうち、どれがテクノロジーによって変化するでしょうか?」
「将来の人材開発のプロフェッショナルとして、どんなスキルや知識を獲得する必要があるでしょうか?」

350を超えるセッションの詳細はこちらで検索できます。(英文)

ATD2018は5月6日〜9日にサンディエゴで開催されます。来年はぜひPFCメンバーと一緒に現地でリアルな情報に触れてみませんか?
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UMUとは?
米国や中国を中心に、多くの企業の注目を集めはじめているマイクロラーニン
グのプラットフォーム。インターネットを介して参加者全員の回答・意見をリ
アルタイムに共有したり、受講者同士のやり取りを促進するコンテンツ配信な
ど、従来のE-learningを超える様々な機能を持っています。PFCでは、UMU
を活用した研修の実施や、導入の支援、コンテンツの提供をはじめています。
興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
ATDとは?
ATD (Association for Talent Development)は、人材開発や組織開発の分野に従事する人のための世界最大の会員組織で現在100以上の国々に41,000人余りの会員を持っています。毎年5月のカンファレンスでは、世界各国から1万人近い参加者が集います。今年も4日間にわたるカンファレンスで、基調講演の他、350以上のセッションがあり、まさに世界中の人材開発・組織開発の英知が結集される場です。