BOPビジネスについての研究成果および新潮流~グローバル組織開発コラム(6)

(このコラムでは、グローバル組織開発に関する身近な話題を提供していきます。今回の著者は取締役の山田奈緒子です。)

第1回『ダイバーシティを推進する日本企業の現在地』はこちら
第2回『グローバル人材に必須の“英語を話す”力を高める唯一の方法(テストのウォッシュバック効果)』はこちら
第3回『グローバル化の促進を阻む大きな要因は、幹部の無意識の思い込み』はこちら
第4回『差別は、知性があるがゆえに生まれるもので、また、組織への帰属愛の裏返しでもある』はこちら
第5回『「本業を通じた社会貢献は当たり前」GIAリーダープログラムの参加者に現れた変化とは?』はこちら

img_yamada2016squareグローバル組織開発の重要な一翼であるグローバルリーダー開発。PFCは早くから新しいグローバルリーダー像を掲げ、GIAリーダープログラムを開発・展開してきました。もうかれこれ7年目になりますが、この間、BOPビジネスに関する新たな研究なども進み、GIAの内容も年々進化させています。本稿では、BOPビジネスについてのここまでの研究成果および新潮流をご紹介しましょう。

ソーシャル/BOPビジネスは(Inclusive Business:包括的ビジネスという呼称もされています)、いま、BOP 1.0(Selling to the poor)、BOP 2.0(Business co-venturing:BOP層の人々をビジネスパートナーとして信頼し、現地での能力開発に注力し、NGO等との直接的連携を図る)を経て、BOP 3.0へ進化しつつあります(カニェーケ、ハート『BOPビジネス3.0持続的成長のエコシステムをつくる』英治出版、2016年)。BOP 3.0を提唱する研究者たちは、「目的とマインドセット」、「オープンイノベーション」、「イノベーションのエコシステム」、「ラストマイルのためのイノベーション」、「セクター横断的な提携ネットワーク」、「持続可能な開発」といった特色が3.0なのだと主張しています。

2.0と3.0の明確な違いについては、論議があるところではありますが、これまでの事例研究から見えてきたソーシャル/BOPビジネスを成功させる企業や戦略に見られる特徴は、次のように整理されています。
① 先進国で開発された既存技術を段階的に適合させるよりも、現地パートナーとの協働を重視している
② 既存のビジネスモデルを根本的に再考する
③ 資本効率が高く、労働集約型のビジネスモデルである
④ 中央政府や現地大企業ではなく、地方政府や現地中小企業、NGOとの関係構築をする
⑤ 知的財産権や法律の強制力が及ばないため、現地でのネットワークや信頼関係の構築を重視する
⑥ 自社の既存組織と切り離された包括的ビジネス(ソーシャル/BOPビジネスのこと)を革新的技術の苗床として活用する
⑦ 再生可能エネルギー、分散発電、マイクロクレジット、無線通信、バイオテクノロジーなどの分野で破壊的イノベーションを起こしている
⑧ そうした先進的技術が先進国市場にフィードバックされる、リバースイノベーションの機会を追及している。(Ricart, Enright, Ghemawat, Hart, and Khana, 2004)

また、ソーシャル/BOPビジネスの戦略構築に求められる条件として有名なのは、4つのA:
Affordability(価格の適切さ)
Acceptability(その土地の文化や価値観・商習慣・社会経済システムとの適合)
Availability(流通網がない奥地の農村までいかに製品を届けられるか)
Awareness(先進国のような広告手段が存在しない中で、いかに製品の価値を伝えるか)(Anderson and Markides, 2007)

現実にBOPビジネスを遂行していくうえでは、3つのインパクト:
①経済的インパクト
②BOP層個々人の能力・意識・健康へのインパクト
③BOP層の社会関係(コミュニティや家族内での人間関係・力関係)へのインパクト
を重視し、常時モニタリングしていくことが肝要になります(London, 2009)。

ソーシャル/BOPビジネス研究は、企業戦略論、企業の社会的責任研究、開発経済学、開発社会学や開発論、新興国市場研究、といった領域からアプローチがされていて、とりわけ国際経営や企業戦略論では、「理論的な基盤はまだなく」事例研究が盛んにされており統計的な実証研究はこれから、という段階にあるそうです。
なるほどと思うのは、アカデミアの世界ではこの領域の位置づけに苦労していて、たとえば伝統的な戦略論では企業の排他的所有・独自性・希少性・模倣困難性を追求することから、社会的パフォーマンスの最大化を追求することは矛盾するではないか、という議論があり、また新自由主義の経済学の観点からは、資本主義の核となる自由企業が、納税という間接的な寄与を越えて、社会善の実現(いわば社会主義的目標実現)に向けて働くことはそもそも矛盾があるではないか、といった議論があることです。
21世紀の地球課題解決という新たに生じてきた活動を、これまでの学問的な枠組みの中だけで整理しきるというのは、当然ながら無理なことであり、研究者は新たな枠組みやディシプリンを模索している真っ最中だということです。ビジネスの世界でも、「ソーシャルビジネスって本当に儲かるの?」「企業がやるべきことなの?」といった既存の枠組みから発せられる素朴な疑問があって然るべきなのだ、と思い直す次第です。

さて、この新領域の実践に果敢に取り組もうというGIAリーダープログラム、7月の2週間にわたるスリランカでの研修(フェーズ2)に備え、先日私が東京でのセッションのDay 3を担当いたしました。前回もお伝えしたとおり、今年参加者のみなさんは、「本業を通じた社会課題解決こそがネクストマーケットだと自社も提唱している。そろそろ事例を作っていかないと戦略が形骸化する」という意識の高さです。
東京セッションのDay 1、Day 2では、まさに本稿の前半でご紹介したソーシャル/BOPビジネスのキモについて、GIAリーダーのロールモデルたち(前回、Day1の講演者についてはお知らせしましたが、過日のDay 2では、エーザイ執行役員の高山千弘さん、マザーハウス副社長の山崎大祐さん)から直接、実例・体験談としてお話しいただきました。私が担当したDay 3では、取り組む社会課題に対していよいよ自分たちのビジネスモデルを構想し、スリランカでのステークホルダーを洗い出しました。このステークホルダーたちは、将来の現地パートナー候補者ですから、先進国のビジネスモデルを押し付けるようなプロダクトアウト、もしくは少し調整を加えたようなグローカリゼーションの発想や枠組みを打ち破るべく、U理論を学びました。GIAリーダーたちが、2週間現地にどっぷりつかり、Uを下って現地の人々と対話して帰国されるのが今から楽しみです。
Day 3には、GIA卒業生やプログラムに関心のあるお客様もオブザーブに来てくださって、議論に花を添えてくださいました。

ご関心のある方は、遠慮なく担当コーディネーター/コンサルタントにお声がけください。