グローバルLeaderになる/を育てる~グローバル組織開発の5つの視点(6)

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グローバルリーダー像は明確か?
これまで5回に渡ってグローバル組織開発(グローバルOD)について論じてきたが、今回が最終回になる。最後のテーマには「グローバルリーダー」を取り上げる。
この連載は、日本企業のグローバル化の取り組みに関する我々の問題意識から始めた。すなわち、多くの日本企業がグローバル化に取り組んではいるものの、その活動のほとんどが、「グローバル人材・グローバルリーダーの“育成”」に留まっていることに危機感を抱いて問題提起をした。真にグローバル化を進めるにはグローバル人材育成だけでは足りないというメッセージを打ち出し、「グローバル組織開発」の取り組みの必要性やその内容について述べてきた。
しかし、もちろん育成が不要だと言ったわけではない。グローバル組織開発の取り組みを進めていくには、やはり、グローバルリーダーの育成は肝だ。(あくまで人材育成“だけ”ではだめだと言ったにすぎず、グローバルリーダーをはじめとしたグローバル人材育成は、グローバル化を進めるのに欠かせない重要な取り組みであることは間違いない。)
我々も、これまで多くの企業のグローバルリーダー育成を支援してきたが、育成プログラムや研修メニューを具体的に検討する段になって、愕然とすることがある。そもそも、その企業が育成したい“グローバルリーダー像”が明確でないことが多いのだ。例えば語学力一つとってみても、「語学など本質ではない」という人もいれば、「言葉ができないと箸にも棒にも掛からない」という人もいる。語学力の重要性が議論できているのならばまだよい方だ。グローバルリーダーを育成するのに語学力以外に何が必要かがよく分からないので、とりあえず英語だけはできるようになっていて損はないのだからと、英語研修のみを充実させている企業も少なくない。
経営陣の間で議論しても、グローバルリーダーとは、現地法人のトップができる人材と同義だと考える人もいれば、いやいや現地法人でトップができる人材はむしろ“ローカル”人材ではないかと議論を持ち掛ける人もいて、グローバルリーダーのイメージが人によって相当異なっていると感じる場面に出くわす。読者の皆さんの組織ではいかがだろうか。自社が考えるグローバルリーダーとは何かを是非議論してみてほしい。

グローバルリーダーに求められる資質や行動
世界のリーディングカンパニーでは、自社に求められるグローバルリーダーとはどのような人であるかを、真剣に議論し明確にしている。例えば、グローバルリーダー輩出で有名なGEでも、7年前の2009年に、「21世紀のリーダー像」はどうあるべきかを打ち出すためにプロジェクトを立ち上げ、世界中の社員から30人のメンバーを厳選してリサーチやヒアリングや討議を重ね、定義したという。そのメンバーの1人に選ばれた、現在GEヘルスケア・ジャパンの代表取締役社長兼CEOである川上潤氏は、そもそも、職位によって統治する「マネジメント」ではなく、人間として影響を与える「リーダーシップ」がますます重要になると指摘している。「情報技術が高度化し、さまざまな国籍、さまざまなポジションの人たちが、互いの顔も見ずに仕事を進められる現代では、役職や組織上の上下関係による命令系統はうまく働かない」ことが明らかになったと言うのだ。さらに、これからのリーダーに必要なのは、「多様な人を受け入れ、それぞれが自分の能力を最大限に発揮し、チームとしてパフォーマンスを向上させる“バウンダリーレス・コラボレーション(境界のない究極的なチームワーク)”をリードできる資質だという結論を得た」と語っている。(参考:Kellog Business Style Japan)
こうした各企業との議論を重ね、我々PFCは、確信をもってグローバルリーダーを次のように定義するに至っている。「地球規模の最適化を常に考え、国や文化を超えた人々を束ねて変革や革新を実現する人」だ。
さらに企業におけるグローバルリーダーは、「多様性を受容しつつ、自社の価値観を伝達・浸透できなければならない」と考えている。
これまで、CSPの複雑性によるグローバル組織開発の難しさを語ってきたが、まさに、この複雑性を乗り越えられる人がグローバルリーダーなのだ。多様性を受容しつつ、国や文化を超えた人々を束ねるためには、Cultural=文化的要因の理解と配慮が鍵になる。国と機能のマトリックスで複雑になるので、Structural=制度的要因に捉われるのではなく、地球規模の最適化から発想できないと前に進まない。価値観を伝達・浸透し、変革や革新を実現するには、Physical=物理的要因を乗り越えるコミュニケーションができなければならない。
我々はまた、グローバルリーダーの定義だけではなく、グローバルリーダーに求められる具体的な資質や行動を、「グローバルリーダーのABC’s」(下図)してまとめているので、議論や育成の参考にしてほしい。

グローバルリーダーのABC’s

【図表1】グローバルリーダーのABC’s

「自己主張できる力」などをここには含めていない。従来グローバルリーダーは、“海外に打って出る”のだから「自己主張できる力」こそが重要といったことが言われてきた。グローバルな環境で「自己主張」はもちろん必要だが、それは若手・現場レベルの話だ。経営陣レベルをはじめとしたグローバルリーダーレベルになると、むしろそう考えることが逆効果になっている。
例えば、会社や事業のトップが、現地法人に出向いて自社の価値観や自身の考えなどを話す場面に我々も同席することが多いが、日本企業のリーダー達は、「主張し伝えねばならない」と勘違いし、大いに肩ひじ張って空回りしている人が少なくないように感じる。
そこで求められているのは双方向のコミュニケーションだ。具体的にどう振る舞えばよいか分からない人もいるかもしれないが、そもそも双方向コミュニケーションの必要性に気づいていない人が多い。自身のコミュニケーションが効果的かどうかを自己認識できた人は、行動を変えている。国や文化や相手の状況を配慮し、相手から引き出すコミュニケーションを通じて多くの人を巻き込み、結果的に考えや価値観を伝達・浸透させることに成功している。自社の価値観を伝達・浸透する際最も必要な資質は、自己主張する力ではない。実は、自己認識する力、すなわち、自分自身を見つめ直すことができる力の方が重要なのだ。

グローバルリーダーを増やすために必要な視点
グローバルリーダー像やグローバルリーダーに必要な資質・行動が明確に定義できているか否かはさておき、グローバルリーダーが十分に確保できていると胸を張る日本企業には、あまり出くわしたことがない。グローバル化が加速するなか、必要なグローバルリーダーの数に現実が追い付いていないようだ。
その背景には、多くの企業の現場で、“経験させっぱなし”が起きていることがある。
ある企業の人事責任者は、「グローバル人材を育てるために、うちではとにかく海外を経験させる。経験から学ぶことが多いので、あえて若手を選んで行かせる。」と言っていた。そこまではよいが、続く言葉に驚いた。「そこで成果をあげた人が生き残ればよい。」
この企業の現地法人を訪れた際には、受け入れ側の現地が大変苦労している様子が伺えた。「たいして使えない人が来る。」という声も随分聞いた。
この例が典型だが、これまでの日本企業のグローバルリーダー育成は、確率や効率が悪い、長い時間がかかりすぎる、といった欠点を抱えているように思う。そして、現地のモチベーションを下げ、組織運営に支障をきたすというおまけまでついてきている。
グローバルリーダーを、どれくらいの期間にどれくらいの人数生み出せるかということは「組織能力」として考えなければならない。
グローバルリーダー育成を組織能力と考える企業では、「タレントマネジメント」が鍵と捉え力を入れている。即ち、例えば海外赴任一つとっても、どのような人が選抜されるのかをオープンにし、そこではどのような成果が求められるのかも明示し、本人のキャリアとどのように関係があるのかも明らかにしている。
前述した企業では、真逆に考えていた。「これから育成するのだから」と考え、これらを明らかにすることは敢えてしていなかった。選抜の基準もオープンにしたら見合った人しか来なくなり足りなくなるからと“ブラックボックス”、失敗を重ねても本人の成長こそが重要だからと“成果には無頓着”、キャリアはやってみなければ分からないからと“出たとこ勝負”、というマネジメントをしているように我々には見えた。
なかなか育成が進まない、結果として長い時間がかかる、必要な数のグローバルリーダーが育たないということが起こっている企業では、「これから育成するのだから」という根本の考えから見直してみる必要があるのではないか。組織能力の違いは、今後、企業のグローバル競争力の違いとして表れ出てくるはずなので、スピード感を持って、大量のグローバルリーダーの育成の取り組みに挑戦することは、極めて重要な課題だ。

グローバルリーダーを育てるために
“経験させっぱなし”ということは、本人にとっても“経験しっぱなし”ということだ。
リーダーを育てるには、「生身の経験の積み重ね」以上に効果的な方法はないと我々も考えてはいる。しかし、問題は、“「経験」を通じて学ぶ”というサイクルがきちんと回っていないことだ。非常に勿体ない。せっかくリーダー育成につながるはずの現場が、経験を積むだけに留まっていて、リーダーとしての成長が促されることなく終わっていることが多いのだ。
“「経験」を通じて学ぶ”サイクルとは、「学習」⇒「経験」⇒「客観視」⇒「内省」というサイクルである。

【図表2】グローバルリーダーを育てる「学びのサイクル」

【図表2】グローバルリーダーを育てる「学びのサイクル」

「経験」を通じて効果的に学ぶためには、まずは「学習」の場があった方がよい。刺激を与えたり、新たな知識を入れたりすることで、質の高い経験を促すことができるし、これから経験することを知識として定着させることもできる。
そして次に、経験の場があることが不可欠だ。だからといって企業は、必ずしも周到な場を用意したり整えたりしろということではない。人はどのような経験からでも大いに学べるのだから、何かと苦労した方がよいはずだ。

経験の場とともに、よりいっそう必要なのは、自分自身を「内省」する場だ。内省とは、経験を通じて自身は何を得たのか、それが自身の今後のリーダーシップ発揮にどのような意味を持つのか、さらにリーダーとして成長するには何をしたらよいのか、といったことを振り返り、自身を見つめ直すということだ。また、自身を内省しようにも、普通は自分自身のことはよく分からないので、「客観視」するための材料を集めることが欠かせない。そのためには、双方向の対話によってフィードバックを得たり、自身の行動の何が効果的に機能していて、何は機能していないかを詳らかにするための情報を、積極的に求めていかなければならない。
このサイクルは、もちろん本人自らの意思がなければ回すことが出来ないが、グローバルリーダーを本気で育てようとする企業は、この学びのサイクルを本人が適切に回せるように支援をしている。グローバルリーダー育成を、単に人材育成と考えるだけではなく、組織開発と捉えた方がよい理由はこの点にもある。リーダー育成をサイクルと考え、また、サイクルが回る環境づくりに注力するのだ。
我々が提供している、GIAリーダーというプログラムがある。21世紀に求められるグローバルリーダーシップを開発することを目指し、新興国での経験を中心にしたものだ。経験を通じて学ぶサイクルが回るように工夫したプログラムにしている。
まずは日本で、新興国でのビジネスで求められる考え方やスキル(リバースイノベーション、異文化コミュニケーションスキル等)を「学習」する。新興国で既に活躍するリーダーから刺激を得る場も豊富に用意している。続いて新興国に赴いて実際に「経験」をする。短期間ではあるが、新興国の躍動を実際に感じながら、様々な社会問題などに直面し体感できるような地域に行き、なるべく多くの現地の企業や共同体の人達と接し議論する。日本とは環境が異なる新興国では、自分自身の価値観やリーダーとしてのあり方を見つめ直す機会は否が応にもふんだんにあり、日々の「内省」を対話を通じて促している。地球規模の世界観から見て自社や自身を「客観視」し、この国に対して本業を通じてどう貢献できるかを考え抜くというのがプログラムに求められるアウトプットだ。
過去の参加者からは、自身の人生観を揺るがす大きな体験だったと語り、後に実際に新興国に赴任してリーダーとして活躍する人が何人も出ている。参加者の中には、それまでに新興国での赴任経験のある人も少なくないので、やはり、経験で終わらせないよう、学習や内省、客観視といったサイクルを回す効果の大きさを確信している。

最後に、グローバルリーダー育成に携わる方が常に認識しておくべきことを確認しておきたい。
生まれながらにしてグローバルリーダー、グローバル人材という人はいない。それは、環境によって作られるもので、経験や教育で時を経て磨かれていくものだ。
かつてカルロス・ゴーン氏も「自国にこもっていては、グローバルな人財にはなれない。必要なのは、グローバルな環境に身を置くことだ。」と語っていた。しかし、その後に「だからと言って、必ずしも海外に行く必要はない。」とまで敢えて言っていたことを思い出す。こうした考えがあれば、「グローバルリーダー育成のために、とにかく海外に送ろう」だけにならないし、「日本にいるのだから、グローバルと関係ない」という人も減るだろう。
“グローバルな環境”とは場所を問わずに作り得る。そのことを確認して、この連載の筆を置く。