グローバルChangeを推進する~グローバル組織開発の5つの視点(5)

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グローバル変革の失敗
これまでの稿では、グローバルでの組織開発に関する個別具体的なテーマに絞って論じてきた。すなわち、チーム作り、バリューズ浸透、ダイバーシティ推進、といった個別の要素だ。
今回のテーマは「チェンジ」すなわち変革である。「チェンジ」は、これまで論じてきた「チーム」「バリューズ」「ダイバーシティ」といった要素とも深く結びついている。それぞれのテーマは、実現に向けてみな 「変革」のプロセスを伴っており、グローバルな環境下での取り組みに、共通の難しさと課題を抱えている。今回は、グローバルでのチェンジ(変革)という視点で、その難しさと対処について考察する。
まずは、我々が目にするグローバル変革の典型的な事例を紹介しよう。人事担当部門における変革の事例だ。本来はグローバル化推進を先導しなければならないはずの人事担当部門が、実はかなりグローバル化が遅れているというのは耳の痛い話だ。
大手メーカーX社では、多角的に展開していた各事業のグローバル化が進んだが、その変化に本社が追い付けていなかった。事業の管理はできていなかったし、情報提供やサポートも十分でないという声が事業部から相次いで出ていた。そのような折、社長が交代し、グローバル人材の流動化や育成の加速化を進めるように指示が出て、人事部門にも大きな改革が求められた。
まずもって行うことにしたのは、人事情報の集約DBの構築だ。グローバルに集約された人事情報を活用し、世界中の人材の積極登用などが効果的にできるようになることを目指した。統一システムを導入してグローバル人事情報を一括管理できるようにし、人事事務運営の効率化も期待された。
続いて、人事制度をグローバルで統一することにした。これまで、海外の事業法人は事業部門の下部組織として設置されており、等級制度や評価制度などは、海外事業子会社各社の人事がそれぞれ独自の施策をとっていた。人事制度を統一することで、人材の流動化を容易にするとともに、業務の標準化によってシェアードサービス化なども進めやすくすることを狙った。
日本で固めた制度内容をグローバルに一斉展開する取り組みがはじまった。人事施策をグローバルに推進する体制も整備した。これまでは、海外事業法人が各々人事部門を持っていた一方で、各事業部には人事部門は存在しなかった。各事業部の人事の体制にも統一性はなく、人事担当を専任に置いている事業部もあったが、総務担当が人事も兼ねている事業部もあった。今後は全事業部にビジネスパートナー(BP=事業部人事)を設けることにし、本社の管理の下で人事施策が実行される体制を構えた。BPには、業務の効率化や標準化によって余裕が出る予定の本社人事部員があてがわれることになった。
これらの変革は、他社に先駆けて新たなチャレンジに踏み出したという自負を持って始められた。ところが、この変革は途中で迷走し頓挫してしまった。何が問題だったのだろうか。一言で表せば、変革のプランニングにつまずき、変革推進のマネジメントも機能させることができなかったということに尽きる。

全体統合と現地適応のバランシングの難しさ
変革のプランニング段階でのつまずきから検証してみよう。
人事情報DB(データベース)の構築では、各国で管理している人事情報はバラバラだったが、情報の内容の統一が不十分なままで、情報の集約だけを図る形となってしまった。文化的に管理に注意が必要な情報の種類も、法的に要求される情報も、それらの情報の使われ方も、国によって異なるのだという各国法人の主張に大幅に譲歩したからだ。X社では、情報管理のための導入システムのプランニングには注力したものの、情報管理とその情報を使った生産性向上のために、どこまでをグローバルで標準化しなければならないかという議論は中途半端だった。そのため、せっかく集約された情報が、当初意図したようにはグローバルに活用されることはなかった。
一方、人事制度の方は、グローバルで統一すること自体が目的とされた。しかし、統一人事制度の説明は予想以上に難航した。労働市場が異なる中で、なぜ等級制度や評価制度を統一する必要があるのか、その理念や考え方を十分に説明できるだけの議論が不十分だったことに大きな問題があった。
結局、グローバルでどこまで統一するか、逆に言えばどこからローカルでの自由に任せるかという考え方の根本に見直しが求められることになってしまった。本社のある日本の常識をベースに構築したということも、統一制度への理解が得られない原因だった。例えば4月に新卒を一括採用するのも日本だけだし、扶養家族の考え方一つ、社会保険のあり方一つとっても日本に合わせるには無理があるという箇所が、次々に露呈することとなった。
変革のプランニングの段階でのつまずきは、いわばグローバル全体統合(Global Oneness)とローカル個別適応(Local Adjustment)のバランシング(バランスの取り方)の難しさから来ていると言えよう。
そもそも、グローバルか否かに限らず、「全体統合(Oneness)と個別適応(Adjustment)のバランシング」は組織運営の肝の一つだと言っても過言ではない。組織としては様々なものを共通化・標準化し一つにした方が効率的だ。一方、一つにせず個別・現地の状況に合わせる柔軟性を保つことも重要だ。
しかし、そのバランスを見極め、適切に保つのは容易ではない。とりわけ、グローバルでの変革においては、CSP(C=文化的要因/S=構造的要因/P=物理的要因)が理由でバランシングがいっそう難しくなる。
S=構造的要因を例にとれば、グローバル標準を一つにすることが合理的という明確な結論がせっかく出ていても、国によって法制度や会計基準等が異なるので、やはり現実的には一つにすることができないと判断せざるを得ないこともままある。国内での変革に比して格段に難しくなることは否めない。
しかし、どこまでをグローバルで統一し、どの部分をローカルなやり方に任せるかという問いかけ自体は、経営にとって大変に意味のある問いだ。それをはっきりさせるということは、その企業の真の競争力の源泉を明確にするよい機会だ。X社の場合も、この企業の競争力の源泉と考える人事機能が何かをプランニングの段階で徹底的に議論し、グローバル標準を決める必要があった。グローバル標準は、絶対の自信がある経営のやり方が反映された仕組みやテンプレートと言える。逆にいえば、そういう絶対の自信を持てるところが明確になっていないうちは、グローバル化はおぼつかないということでもあるのだ。

本社組織とローカル組織および個人の間のギャップ
X社がうまく対処できなかった、グローバルでの変革の推進段階におけるマネジメントの難しさについても考察しておこう。
プランニング自体の難は別にしても、日本の本社で固めてからグローバルで一斉展開するというやり方そのものも不満を呼んだ。日本で固めたことで、現地を分かっていない本社が日本の考え方を押し付けている、と取られてしまったのである。各国・各事業部からのクレームや要求、問い合わせが本社人事部に殺到し、その対応に忙殺されることとなり、変革の本来の狙いはどこかに追いやられてしまった。この変革は、“they”(彼ら)の変革と捉えられ、“we”(私たち)の変革という認識を終ぞ持たせることができなかった。プランニングの段階で現地を巻き込まなければ、推進の段階で変革への協力やコミットは生まれないのだ。
また、せっかく新たに配置したBPも機能しなかった。本社で決定したことを各国・各事業部に徹底するというBPの役割自体は明確だった。しかし、単に本社人事のメッセンジャーとなるだけだったので、現地では信頼を得られるどころか不信感さえ抱かれてしまうことが少なくなかった。今後BPは、事業視点で事業のニーズに合った人事戦略を立案していくという本来の役割を担うことになっていたが、導入時点で早くも暗雲が立ち込めてしまった。さらには、本社人事との間で権限や責任の線引きもクリアでなく、お互いが時に無責任になり、迷走に拍車をかけることにもなってしまったのである。
このように、変革施策の浸透・実行段階においては、本社組織とローカル組織、さらには個人との間のコミュニケーションギャップが大きくもたげてくる。そのギャップを埋めようと人員を配置しても、うまく立ち回れなければギャップを解消するどころか、さらにギャップを広げることにもつながりかねないのだ。
もともと、本社組織とローカル組織、そして個人の間には、大きなギャップが存在するものである。情報量が違うので、認識が異なりがちだ。関心が異なるので、同じものを見ても、同じメッセージを聞いても、違うものとして捉えられがちだ。
グローバル変革においては、さらにそのギャップがより広がるのだ。本社組織の考えやメッセージは、ローカル組織、ましてや個人にまでいっそう届きにくくなる。そのギャップを広げる要因は、やはり、CSPなのだ。
【C:文化的要因による難しさ】グローバルにおいては、各国・各地域ごとに文化が異なることによって、同じメッセージを発してもローカルごとに受け取り方が異なる。各個人に至ってはなおさら受け取り方が異なる。
【S:構造的要因による難しさ】グローバルでは、組織からのメッセージが3つの方向(機能、事業、国や地域)から発せられるので、普段からただでさえ指揮命令系統が複雑になりがちだ。変革の際のメッセージ発信も、よほど整理されていないと混乱や誤解を招きがちで、個人にまではいっそう届きにくくなる。
【P:物理的要因の難しさ】物理的に一同に会せない、あるいは対面で伝える機会を持ちにくいので、本社からのメッセージは、ローカル組織、およびその先にいる個人にまでは、よほど工夫しないと届かない。

変革のグローバル展開を進める手順
上述したような難しさに対応しつつ、変革をグローバルに展開する場合の進め方を一般化して、ヒントを提供したい。
まずは展開手順だが、パイロット(試験的に先行して行うこと)をうまく設けることだ。変革のグローバル展開には、大きく分けて次の2つのパターンがある。1つ目は「日本から始める」(ロールアウト)パターン、2つ目は「海外から始める(日本を最後にする)」(ロールイン)パターンだ。
「日本から始める」パターン、即ち、日本本社でテンプレートを開発し、各国へ展開するという形を選択した方がよい場合は、展開する内容が競争力の源泉として明確で、それをグローバル標準にするという確固たる自信がある場合だ。どれだけ時間をかけてでも納得させきるという強い覚悟も必要だ。
一方、「海外から始める」パターンのメリットは、何と言ってもパイロット拠点を海外にできることだ。
パイロット拠点は、通常、「パイロット拠点として機能するかどうか」、つまりは、今後の展開がしやすいかどうか、当該拠点での成功がグローバルに展開する際に説得力をもつか等を考慮して選定することが重要だ。
グローバルへの展開を考えると、日本の本社から始めると、かえって道のりが遠くなる恐れがある。日本の本社からロールアウトを始める場合、例えば日本語がネックになる。多くの国々ではビジネス言語は英語だ。日本の複雑な組織構造が問題になることもある。多くの国々では組織も日本より単純なケースがほとんどだ。海外から始めることも視野に入れて検討する必要があるのはこのためだ。
そしてさらに言えば、海外での成果を梃子にして、日本の本社のグローバル化を促進できる、といったメリットも追求する価値がある。日本本社以外のグローバル地域から展開を始め、グローバル全体の成功モデルを確認・評価したうえで、日本の本社に展開するというのも1つのアプローチとして、大いに検討する余地がある。既にグローバルではうまくいっているのだから、という事実が、変革の抵抗勢力になっていた本社に風穴を開けた例をいくつか目にしてきた。

グローバル変革を推進するチェンジ・エージェント
最後に、こうした変革をグローバル展開する際に活躍する、「チェンジ・エージェント」についても触れておきたい。チェンジ・エージェントとは、変革の過程を効果的にマネジメントし、変革を推進する者のことでX社ではBPが担った役割だ。
チェンジ・エージェントにまず求められるのは、グローバルかローカルかで生じるせめぎあいで、「コンフリクト・マネジメント」できる力だ。
これまで見てきたように、グローバル変革では、プランニングにおいても推進マネジメントの段階でも、グローバルかローカルかのコンフリクトが多岐にわたって生じる。現地からは現地の実情をよく分かってくれたと認められつつ、グローバルが試みようとする統一や標準化の意図や意義の理解を促せなければならない。グローバルとローカルの間を取り持つコミュニケーションも取る必要がある。そして、本来の目的を見据え、粘り強くコンセンサスまで導いていくことが求められる。
さらには、個別の国vs本社という構図ではなく、日本も含めた世界各国の国々の知恵を結集して最適なものを作り上げるという「ファシリテーション」ができる力が不可欠だ。
リーバイスやナイキなどのグローバル企業で、チェンジ・エージェントとして世界中で推進される変革を主導した経験を持つ増田弥生氏は、“日本人だったからこそ”ファシリテーションで付加価値を提供でき、チェンジ・エージェントとして成功できたと語っている(『リーダーは自然体」光文社新書/増田弥生・金井壽宏著』)。
日本人特有の思いやりの深さ、謙虚さ、段取りのよさ、何でも許容する柔軟性といったものが、グローバルでの変革に多くの人を巻き込むのに役立ったのだという。増田氏自身は、英語は不自由なのに、名指しでファシリテーションを頼まれる、いわゆる「お座敷がかかる」ことが多かったという。こうした日本人の特性によって、例えば変革のロールアウトにおける会議において、すべての参加者のあらゆる意見を引き出せていたことや、世界中の何人だろうと建設的な議論の場をつくれていたことが理由ではないかと語っている。
私たちも、言葉の壁などに臆するのではなく、日本人だからこそつけられる付加価値に目をやって、自信と誇りを持ってグローバルな変革推進で活躍したい。