故平尾誠二が語った「イメージメント」(松村卓朗)

matsu_seminar【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】
第59回:故平尾誠二が語った「イメージメント」
~平尾誠二氏を偲び、名著「イメージとマネージ」を読み返す~

10月20日、ミスター・ラグビーとまで呼ばれていた平尾誠二氏が53歳の若さで亡くなった。本当に驚いたし、とても悲しかった。卓越したプレーと端正な顔立ちから人気は絶大だったが、ラグビー界を超えた人物だった。実際彼はサッカー協会の理事も務めていたことがある。私自身も、彼の本は随分と読んで、競技は違えどもサッカーにも、そしてチーム作りやリーダーシップにも、彼の考えを大いに参考にしたものだ。
その中でも特に大きな影響を受けた、松岡正剛氏との対談「イメージとマネージ」を久しぶりに読み直し、追悼の意を表したいと思い立った。1996年に刊行された本だ。
(参考:平尾 誠二、松岡 正剛「イメージとマネージ―リーダーシップとゲームメイクの戦略的指針」、集英社(1996))

何といっても、この「イメージとマネージ」という言葉の選び方が至極だ。ちなみにこの本では、松岡氏の知見によって、「場合と具合」とか、「バイブレーションとシンコペーション」とか、極めて興味深い言葉で、物事が整理されている。
本は、「イメージをマネージする」という章から始まっている。ラグビーという競技の本質的特殊性について語り合うことから、対談は幕を開ける。
まず、ラグビーはスポーツの中で唯一、「フィードバック思想」を持っていると言う。ボールを前に投げることができず、チームが前進するにはボールを少しずつ後ろにパスしなければならない。組織やプロジェクトにとって大事なことだが、社会はフィードバックを忘れているという。
また、「トライ」という考え方がいいという話も展開される。得点ではなく、「試み」だというのが、まさしくラグビーの原点ということだ。
さらに、1チームが15人という数も面白いという話になる。ボールゲームとしてはおそらく一番多い数だろうが、組織の理想的なボリュームがこれくらいではないかという話だ。組織運営に関する多くのことを、ラグビーから学べるのだと言う。

そして、イメージとマネージの話に移る。
平尾氏は、「イメージをマネージする」とはどういうことかを、次のように語る。
ポジションってありますよね。スクラムハーフとかフルバックですね。このポジションを全うするのはマネージだと思うんです。これはこれですごく重要で、そのポジションに必要とされるスキルはマスターしなきゃならないわけです。たとえばフッカーは、スクラムの最中に足でボールを蹴りだすことができなければ、つまり、スクラム中のボールをマネージできなければ、しょせん話にならないわけです。
ところが、これだけではラグビーにはならない。やはりそれぞれのプレイヤーにはイメージがなくてはならないわけです。しかもそのイメージはかなり豊富である必要がある。ひとつだけのイメージは実はマネージと同じで、それはスキルなんです。そうではなく、たくさんのイメージを思い浮かべて、自分のアタマの中でラグビーを拡張していかなければダメなんです。イメージの多様性が拡張を生む。

続いて松岡氏も、次のように続ける。
そうですね。しかも、それは最近のスポーツでよく言われるイメージ・トレーニングとは違うんだよね。イメージ・トレーニングというのは、どちらかというと、ひとつのサクセス・イメージを何度もアタマの中に思い浮かべて、ワンパターンの自信をつけることでしょう。なんとか自分に言い聞かせるというか、暗示をかける。しかし、それじゃない。むしろいくつものシナリオ選択能力を持つということですね。その能力を試合中に出入りさせられるということ。

そして、話は、とても面白い概念の提唱に進む。それは「イメージメント」という概念である。平尾氏は、「ぼくの感じで言うと、イメージはマネージされたときに加速するんだよね」と語っている。
イメージというのは構想するためには不可欠なものである。ところがイマジネーションだけでは構想にはならない。イマジネーションにマネジメントを加えたものが、「イメージメント」だ。
平尾氏の残した功績は数限りないと思うが、ラグビー、そしてスポーツにおける「イメージ」と「マネージ」をつなげたということは、とても重要な功績の一つなのではないかと思う。

そして、何より、彼の功績は、我々ビジネスパーソンにとっては、ラグビーを通して、リーダーシップやコミュニケーションの秘訣を語りうることに気が付き、教えてくれたことにあると思うのは、私だけではないだろう。
ご冥福をお祈りしたい。