グローバルダイバーシティを受け入れ活かす~グローバル組織開発の5つの視点(3)

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グローバル化を推進するダイバーシティの取り組み
多くの日本企業で、ダイバーシティ(多様性)推進の取り組みが花盛りのようだ。「ダイバーシティ」推進室が設けられ、「ダイバーシティ」研修が行われ、「ダイバーシティ」のためのプロジェクトが立ち上げられている。
ダイバーシティ推進とは、健全な競争や組織作りの中に、これまで部外者としてしか扱われていなかった人材にも入ってもらうことを狙うものだ。
日本では、例えば、ダイバーシティへの取り組みとして、女性活躍推進に取り組む企業が多い。ダイバーシティ推進は、女性に下駄をはかせて昇進させることでは決してない。これまで手薄であった女性への能力開発を行い、実力はあるのに昇進しない、あるいはできないような壁を取り除く取り組みだ。
ダイバーシティ推進を定義するならば、国籍・人種・性別・年齢といった多様な「属性」および、一人ひとりに特有の知識や経験、価値観などの「個人の特性」を活かし、組織のパフォーマンスを高めることを目指す活動である。グローバル化された組織では、当然のことながら、「属性」および「個人の特性」が多様だ。多様な「属性」および「個人の特性」を活かしきることはグローバル組織運営の目的そのものといっても過言ではない。従って、ダイバーシティ推進の取り組みは、グローバル組織開発にとっては鍵となるものだ。
前述したように、ダイバーシティの取り組みとして、日本ではまずは「女性活躍推進」などから始める企業が多く、必ずしも直接グローバル化を目的としていないケースも多い。しかし、ダイバーシティの取り組みはどれも、それ自体が組織のグローバル化をさらに促進するものであることは間違いない。だから、日本企業の多くで、こうしたダイバーシティの取り組みが盛んになること自体は大変望ましい状況だと思う。

日本企業に求められる「統合」アプローチ
しかし、我々は日本企業でのダイバーシティ推進の取り組みに多く接してきたが、その基本的なアプローチの方法を、根本的に見直す必要があると思うことが少なくない。日本企業の多くは、ダイバーシティ推進にあたり「同化」のアプローチをとってきた。「同化」とは、マイノリティ(少数派)に対し、マジョリティ(多数派)のやり方に倣うことを求めるやり方だ。例えば、女性活躍推進と謳いながら、「男性みたいに働けるのならば、『管理職にしてあげる』」といったアプローチをとってきたわけだ。これをそのまま、例えば外国人社員に当てはめると、マイノリティ(外国人社員)にマジョリティ(日本人)と同じようにふるまうことを求めるやり方だ。グローバル化が不可欠となったいま、同化アプローチでは立ち行かなくなっている。
また、「分離・隔離」アプローチをとる企業も多い。このアプローチは、「女性向け商品を、女性だけのチームが開発する」といったものだ。これも外国人社員にあてはめると、外国人を決まった部署に配属し、グローバル化を目指そうとするものだ。その部署だけが異なる職場風土を持つようになる。組織全体で見れば、必ずしもダイバーシティが進むわけではない。
一方、「統合」アプローチというのがある。【下図】

図3

このアプローチは、マイノリティが活躍できるように、組織の仕組みを変革したり、新たな風土を築いたりするというものだ。例えば、女性に男性と同じように働くことを強要するのではなく、女性だけのチームを作るのでもなく、女性が活躍できる(女性だからといって活躍できないことがない)ようにするために、職場全体の残業体質を改善するといったアプローチだ。あるいは、どのような国籍やバックグラウンドを持つ人であっても納得できる、透明性の高い評価制度を全社に導入・運用するということだ。グローバル化を進める日本企業にとって、今後は「統合」アプローチをとり、外国人が基幹人材として活躍できる組織になることは重要かつ喫緊の課題である。
統合アプローチにおけるキーワードは『インクルージョン(受け入れ)』だ。ダイバーシティを推進しようとするだけでは、「同化」や「分離・隔離」に留まりがちだ。そこには区別や排他の発想が暗黙的に残っている。真の意味でダイバーシティを推進するためには、インクルージョン、つまり多様性を受け入れるという発想を根本に持っていることが必要なのだ。

グローバル化によって増すダイバーシティの複雑性
ここまでは、ダイバーシティ推進の取り組みについて、女性活躍推進や国内での外国人社員活用などを例にとって説明してきた。
ここからは、多国籍企業が抱える多様性には、具体的にどのようなものがあるかを、グローバル化の複雑性を説明するCSPモデルに沿って紹介しよう。グローバル化によって多様性が増すというのはどのような状態になることなのか、そしてグローバル化が進んだ多国籍企業ではどのような対応が求められているのかを概観しておきたい。

【C(Cultural/文化的要因による複雑性)】言うまでもなく、多国籍企業では、内包する異文化多様性が増す。社員各人が持つ宗教の違いは、日本人にはなかなか理解できないことが多いが、繊細に対応しなければならない問題である。例えば、最近、海外から届くクリスマスカードに「Merry Christmas」と書いていないことが多いことに気づいた人は多いだろう。「Merry Christmas」はキリスト教徒であることを前提とした挨拶であるため、多国籍企業では使えないのだ。「Season’s Greeting」の方がダイバーシティを配慮したスマートな挨拶状なのである。

【S(Structural/制度的要因による複雑性)】多国籍企業では、進出する国の社会の多様性にも対応せねばならない。社会によってダイバーシティ課題はそれぞれ異なっており、多国籍企業では、各国の社会事情を反映したダイバーシティ推進に取り組む必要性が生じている。
例えば、米国で活躍する企業ではLGBTへの対応が必須となっている(LGBT=レズビアン(女性に惹かれる女性)、ゲイ(男性に惹かれる男性)、バイ・セクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害)の頭文字を取った総称であり、セクシャル・マイノリティ(性的少数者)のことをさす)。制度として整備しておくことが求められる。グローバル化が進むと、例えば、米国でプロフェッショナルとして活躍するLGBTが中国に出張するといったことも増える。その際、中国では同性愛が違法行為となるといったことをガイドラインとして知らせておくことが必要だ。彼らがそれを知らずにもし現地で奔放にふるまうと、やっかいなことになるだろう。
グローバルダイバーシティを進めるには、まさしくこういった1つ1つの社会による複雑な違いに配慮するセンシティビティと、それに基づいた制度の整備が必要だ。

【P(Physical/物理的要因による複雑性)】多国籍企業の拠点はグローバルに分散しており、物理的・地理的な多様性を内包している。多国籍企業では、単に散らばるだけではなく、この多様性を活用できてこそ、真にグローバル化が進むと考えるようになっている。
例えば、ある企業では、インドにITのコールセンターを設けて、インド人が日本語で対応しているが、これをダイバーシティ戦略の1つと考えている。インドという立地特有の優位性、つまりITが得意であるインド人を有効活用できるまでを、拠点立ち上げのシナリオに含めている。また別の企業では、コンカレントR&Dと称し、グローバルに分散した立地および時差を利用して、24時間無駄なく製品開発を行っているが、これも、単にオペレーション効率から行っているのではなく、多国籍企業ならではのダイバーシティ推進の一貫という捉え方をしている。

仕組みは既にあるので運用こそ鍵
グローバル化によって複雑性がさらに増す多様性を理解することに加え、多様性が原因で起きる摩擦をコントロールし、さらには、うまく組織の活力に変えていくということが、ダイバーシティ推進に求められる。
ダイバーシティ推進は決して多様性そのものの実現が目的ではない。多様性がもたらす「違い」を組織の活力に変えてこそ、取り組みの意味があるのだ。
組織の活力に変えるために、「統合」アプローチが必要だと述べた。統合アプローチをとるグローバル企業では、「仕組みづくり」と「風土づくり」に力を入れている。
グローバル企業の仕組みは、マイノリティが成果をあげて、結果として昇進していくといったことが実現されるように作られている。「本国以外の人材を最大限活用できるよう、どのようなことをしているか」と問うと、グローバル企業では、「タレントマネジメント」の仕組みを説明されることが多い。タレントマネジメントの仕組みは、例えば、評価の仕方一つとっても、決して「属性」ではなく、成果や目標達成度等の「明確な基準」で評価をするというものだ。ただし、よくよく聞いてみても、多くの日本企業も同じような制度を持っており、仕組み自体に何ら目新しさがあるわけではない。
仕組みは同じようなものなのに、しかし、一方はグローバルダイバーシティが進み、一方は進まないというのであれば、これは、仕組みそのものではなく運用に問題があると考えざるを得ない。
先日も、ある日本企業の管理職達から「外国人の評価は難しいんだよ」と嘆く声を聞いた。評価の話題に「属性」が出てくるというのは、きちんと評価基準で評価していないこと、つまり運用の不備を自ら明かしているようなものだ。
グローバルダイバーシティを実現しているグローバル企業では、タレントマネジメントの重要性を強調する企業が多いが、その仕組みがあるだけではグローバルダイバーシティは実現しえない。現場で制度を運用する管理職のダイバーシティ&インクルージョンの能力・行動が伴わなければいけない。これが即ち風土づくりということだ。
日本企業の多くは、例えば外国人の人材活用の制度を作っても、管理職の運用能力が低いせいで、風土改革・行動変革がうまくいかず躓いているのだ。運用能力の向上を、各人が持つ価値観やその集合体である価値規範が大きく邪魔をしているように感じる。

求められる管理職の価値観変革
ある製薬企業に勤めるアメリカ人のRさんと話していて、次のような話を聞いた。日本人が無意識かつ鈍感に、「人種差別者」的な表現を使うことに驚き、毎日疎外感を感じるというのだ。Rさんの目の前で日本人上司が、「あー英語で話さないといけないから疲れるなあ」とぼやいたりするというのだ。こうぼやく本人には一切悪気はない。しかし、自分たちがマジョリティであり、こういった心無い発言がマイノリティを傷つけ排除することに気づかないのだ。
Rさんは、また、新卒採用で外国人社員が増えているので、恒例の新人研修である病院での1週間の高齢者介護体験を外国人にもやらせようと発案したところ、人事および窓口になっている営業から猛烈な反発をくらったという。そんなことを病院や患者側が受け入れるわけがないと。しかし、Rさんの熱意で外国人の介護体験が実現し、やってみたらば、高齢の患者さんから、外国人も日本人と同じように温かく、熱心に介護してくれてすばらしい!と感激の手紙をもらったという。「外国人には無理だ」「外国人は日本人より不真面目だ」、という先入観が日本人は強すぎるのではないかとRさんは言う。
また別の企業では、海外赴任前研修の場で、先日もある幹部が次のように発言をしたことがあった。「海外赴任で、婚期を逃すことになったら申し訳ないなあ」この発言が、ダイバーシティプロジェクトで議論の的になった。
この発言をした幹部は、そもそも結婚とは必ずするものということや、結婚するのは日本人といった前提を置いていることが分かるだろうか。海外に出ることで、結婚相手のパイがむしろ広がるという発想は、はなからないようだった。価値観に根差した発言ものなので、とても根深いものだ。
海外赴任から戻ったばかりで、課長に昇進することが決まったある企業の女性リーダー数人を集めて、人事担当役員が激励する場面に居合わせた。「女性はこれから、子育て・介護をしながら管理職になるのだから、男性以上に不退転の決意をもって」と発言して、参加者たちから総スカンをくったのを目の当たりにした。彼女たちの見解はこうだ。「子育て、介護を女性の仕事と決めつけている」「たかだか課長になるのに、なぜそんな不退転の決意が必要なのか?男性課長がそんな決意をしているように感じない」「仕事に魅了されて一人で新興国に開拓に行ってきた。治安の悪い海外では、女性への暴力やレイプのリスクと隣り合わせで仕事している。こういうハラのくくり方があることを知ってほしい」
彼女達は、会社の取り組みが、『女性管理職を増やす=子育てとの両立』に終始していることに違和感があると言っていた。さらには、子供を育てていないと女性は人間として一人前でない、という根強い価値規範があることに疎外感を感じるとまで言っていた。

日本企業における真のグローバルダイバーシティはいつ実現するのか?
ある企業のダイバーシティ推進室長は「女性活用ですらあと30年かかるのではないか。グローバルは見当すらつかない」とため息をついていたけれど、それではまずい。女性活躍も、働き方の多様性も、グローバル化のための第一歩なのだから(例えば女性が活躍してない組織で、外国人が活躍できるとは思えない)、あらゆるダイバーシティ推進はグローバル化に向けた組織変革能力が問われると思って取り組むべきと考える。それでも変革が遅々として進まないのなら、組織上層部に外国人や女性といったマイノリティを、マイノリティでなくなるぐらいの人数登用する、ラディカルな変革も必要かもしれない。(代表取締役:松村卓朗)

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