グローバルチームを運営する~グローバル組織開発の5つの視点(2)

matsu_seminar第1回『グローバルな組織開発はなぜ難しいのか?』はこちら

グローバルチームの難しさ
組織がグローバル化すると、グローバル“チーム”が組織内の至るところにできるようになる。例えば、機能別に分かれているが国をまたがって運営されるチーム、国籍が異なった人達で構成されるワーキングチームなど。本社と現地組織だって1つのグローバルチームとして機能することが求められる。海外赴任を命ぜられ、いきなりそのようなグローバルチームの運営を任されることもあるし、日本にいても、ある日突然上司が外国人になり、環境が一変してグローバルチームの一員として働くことになった、といったことも、今はもう珍しい話ではない。
MITによる58のグローバルチームへのヒアリングでは、調査対象となったチームのうち、「“大変うまくいっている”のはわずか18%」だけで、そして「1/3にもわたるチームが“全くうまくいっていない”」と答えたという調査結果が出ている。グローバルチームがうまく機能しない原因としては、メンバー間での信頼関係の醸成、コミュニケーションの障害の克服、チームの方向性と目的の共有、などが上位に挙がっていた。グローバルチームが抱える課題は、まさに、組織開発課題そのものだ。しかし、こうした課題は、必ずしもグローバルチームに限ったものではなく、日本国内の日本人だけのチームワーキングでも同じだという指摘を受けるかもしれない。ただ、グローバルチームでは、その難しさが格段に増すのだ。

難しさが増す理由は多様性にある。「日本人はチームワークがいい」と言われてきたが、しかし、その前提は、あくまでも均質性の高いチームでのチームワークだ。グローバルチームに求められるのは、多様性の高い組織の中でのチームワークであり、全く別物と捉えるべきだろう。そこでは、一言で言えば、「和」を以って尊しとするのではなく、むしろ「異」を以って尊しとする、というような視点や姿勢の転換が必要だ。(多様性はグローバル組織開発のキーワードなので、ダイバーシティの回でさらに詳しく取り上げる。)

多様性が増すことによって、日本人のみの国内でのチームの運営に比して、グローバルチームワーキングは3層にまたがって複雑性を増す。CSP(Cultural、Structural、Physical)の複雑性だ。グローバルチームに携わって仕事をする際、CSPがもたらすチームワーキングの難しさに直面し、苦労した経験のある人は少なくないはずだ。

  • C(Cultural=文化的要因による複雑性):文化が異なる人達がチーム内に混在することが、チームワーキングの複雑性を増加させる。文化は無意識のうちに習慣化されているものだから、自分では気づかない。一緒に働いてみてはじめて、文化や宗教からくる生活習慣等の違いに気づくことが多い。だからこそ、相当に敏感になる必要がある。ラマダンによる1日5回のお祈りなどを挙げるまでもなく、身近にいくらでも文化からくる生活習慣の違いを感じる機会がある。先日も、中国から1週間だけ日本に来たワーキングチームの数名に、わざわざ取り寄せた高級な弁当を出したところ、誰も食べないという場面に出くわしたことがあった。「何と配慮が足りないのだ」と驚愕の顔をしていた。中国では、冷めたものを食べるというのは、違和感があるどころか、あり得ないことらしい。しかし、「弁当は作るときにあえて“冷まして”容器に入れる。日本の気候は暖く湿度も高いから、下手に温度が高いままだとすぐに悪くなる。」とか、「赤い梅干しが入っているのも、消毒や防腐という効果を期待している。」といった話をすると、弁当にトライしてくれた。「お寿司も温めることがある。」「日本のアニメでは弁当を学校で食べるシーンが出てくるが、どうやって温めているのかずっと不思議だった。」などというコメントにはこちらが驚かされたし、「日本では弁当用の冷凍食品がすごい。多くの種類の料理が弁当のために設計された味や大きさになっている。」といった話には、皆がとても驚き関心を抱いていた。
  • S(Structural=制度的要因による複雑性):市場の特性や政府の規制、あるいは組織の制度が異なることなどによって、チームワーキングの複雑性は増す。スポーツチームでの話を例にとるが、元サッカー日本代表監督の岡田氏は、かつて中国のプロチームの監督を務めていた。中国でのチーム作りでは、日本では想像すらしない特異な規制や市場特性、ならびに組織事情等を理解することと、その上でその壁を崩していくことが、サッカーの指導以上に鍵だったと語っている。例えば、中国のリーグには“領隊”という人間を必ずベンチに置く決まりがあるという。軍隊から来ている制度らしい。領隊は共産党員でなければ認められず、思想教育を受け持ち、態度等を注意するらしい。「ベンチ内は全部監督が仕切る」と言っても、監督は共産党員ではないので領隊はできないのだ。岡田氏は、苦肉の策として、クラブの社長を領隊としてスタンドに残し、コーチを領隊代理としてベンチに置く方法を考え、何とかリーグの許可をとったという。あるいは、例えば、どのチームにも1人もスカウトがいないことに驚いたという。どうやって選手を見つけるのかというと、コーチや選手が自分と同郷の子を連れてくる。入団テストを受けさせる見返りに子供たちの親から仲介料をもらう。チームを解雇された選手の移籍先探しも、そういう地縁とか人脈が複雑に絡み合ったルートをたどって自分で行うらしい。そこまで縁や人脈によって成り立っている社会なのだ。選手の採用のみならず起用なども「誰に連なるか」で左右されるのが普通で、監督としては効果的なチーム作りを行う上で最も障害となったのはこの点だったという。
  • P(Physical=物理的要因による複雑性):物理的な要因、即ち、場所・時間・技術等が多様になることによって、チームワーキングの複雑性は増す。チームメンバーの活動場所はひとところでないどころか、場合によっては遠く世界に散らばる。時差も生じることで、コミュニケーションをとることが一段と難しくなる。また単に時差という意味だけではなく、各人が持つ時間感覚をも考慮に入れる必要がある。変革のペース、スキル習得や認識合わせに必要な時間、意思決定のスピードなどだ。さらには、活用できるテクノロジーやインフラが異なることによって、メンバーには相当なストレスや負担を生じることも少なくない。

グローバルチームワーキングの難しさに対処するコミュニケーション
グローバルチームと一言で言ってきたが、我々(読者の大多数であろう日本人)がチームワーキングするパターンは、以下のように分類できる。

 X. 自身がマジョリティ(=多数派。日本国内で上司・同僚・部下に外国人が少数いて、グローバルチームワーキングをするといった場合)
Y. 自身がマイノリティ(=多数派。海外拠点に一人・少数で乗り込んでチームを作るといった場合)
Z. 散逸(世界各地に散らばっているメンバーからなるチームで働くといった場合)
それぞれのパターンで、チームワーキングの要諦、特にコミュニケーションにおける対応策を確認しよう。

X.自分がマジョリティのチームの場合は、マイノリティの(C)すなわち文化への十分な配慮をしつつ、「文化によらない普遍的なコミュニケーション方法の確立」が最も重要だ。一つの文化の(特に日本の)“あたりまえ”だけを元に、このチームの“あたりまえ”を作らないことだ。
チームワーキングというのは、会議を通じてコミュニケーションが図られることが多い。しかし、日系企業に勤める非日本人社員から多く聞かれるのが、会議に対する不満だ。「なんの前触れもなく会議に召集され、何を話すのか、何が目的なのか、毎回わからない。」といった声をよく聞く。会議を実りのあるものにするためには、参加者の文化的背景から来るコミュニケーションスタイルの違いを十分に理解しつつ、チームの新たなコミュニケーションスタイルを確立する必要がある。

例えば、会議のゴールイメージと課題をしっかり定義して示すことだ。確かに日本の会社の日本人による会議では、あるいはアジェンダが用意されていてトピックが並べられていても、「~について」とだけ書かれていて、課題や論点がよく分からないものが多い。そして、今日は何が決まればよいのか、そのためにどこまで議論すればよいのかも不明確なことが多い。さらには、会議のルールを設定することが有効だ。前もって説明することに加え、議論の展開する過程でルールが守られていることを確認することも必要だ。ゴールイメージや課題あるいはルールは、予め必要な言語で箇条書きにし貼っておくとよい。誰もが参加しやすくなる、新たなコミュニケーションスタイルを目指すべきだ。

こういったことは、もちろん日本企業で日本人が打ち合わせを行う場合にもメリットがあるが、少数派の異文化のメンバーには不可欠だ。自身が参加できている感、チームに貢献している感が、やりがいに大きく左右するからだ。

Y.この場合もまた(C)の複雑性でのチームワーキングの難しさがあるが、しかし、Xとは逆に自身が少数派なので、自分が異文化に積極果敢に対応することが鍵となる。「ミスコミュニケーションとディスコミュニケーション」を自ら起こさないことだ。
コミュニケーションが上手くいかないときには、“ミスコミュニケーション”か“ディスコミュニケーション”が起きている。ミスコミュニケーションは発信者の意図と受信者の意図が違う場合に起きる。ディスコミュニケーションはコミュニケーションが行われていない状態だ。
ミスコミュニケーションには、まず発信者と受信者の意図を合わせることが重要だが、日本人には、自分の意図を明確に伝えることをもっと意識しなければならない場面が多い。自分が少数派で発信者の場合はなおさらだ。

先日、ある外国人から、提案に対して日本人はよく「I think it is difficult.」と言うがなぜかと問われた。確かに日本人は摩擦を和らげるために、やんわりと断るのがよいと考えてしまう。しかし、まずNoとはっきりと伝えればよく、断ることは決して失礼なことではない。むしろ相手は、時間を無駄にしなくて済んだことを感謝しさえするのにと言っていた。日本的な意識と表現では、意図がきちんと伝わらないことが多いと考えるべきだ。

ディスコミュニケーションの方は、「分かってるだろうから」が起きる理由だ。「分かってるだろうから」は驕りだ。異文化環境では致命的だ。言葉が流暢でないと話しづらいこともあるだろうが、コミュニケーションを取らないからますます話しづらくなるし、コミュニケーションをとらないから、さらに認識がずれるという悪循環に陥る。

自身がマイノリティの場合、(C)に加えて(S)の理解も鍵となる。(S)の理解に努めた上で、そして時には積極果敢なチャレンジも時には必要だ。前述した岡田氏は、率いた中国のチームで、縁故ではなくうまい選手を残そうとしたところ、解雇選手リストの中にはオーナーの甥がいたと言う。リストにその名前を見つけた周囲は「そこに手をつけちゃ駄目だ」と騒然となったという。しかし、最終的には岡田監督が進退をかけてオーナーに直談判し承服させている。

岡田氏はチームを強くするという目的のために、そして、メンバーの士気は。『今までは試合に出る、出ないが“縁故”で決まっていた。今年は監督が“実力”で判断してくれるからうれしい』と。」

バーチャルコミュニケーション
Z. の場合では、(C)も(S)もあるが、特に(P)への対応が最重要だ。物理的要因の複雑性に対応するには、「バーチャルチーム」でのチームワーキングスキルの習得が欠かせない。
まず「顔を合わせて話さないとうまくいかない」という先入観を捨てる必要がある。MITの調査(“Managing the Flow of Technology” T.J.Allen)では、関係構築がきちんと行われ効率的に運営されたバーチャルチームは、顔を突き合わせたリアルチームより高い成果をあげることができたという結果を紹介している。実際、バーチャルチームは効果的に運営されればいくつもの長所がある。

– 時差を利用してメンバーの誰かが必ず働いている状況にできる
– 全世界から幅広い情報が集められる
– ローカルマーケットに対する豊富な知識と情報がある
– コスト削減が可能
– メンバーの多様な経験とスキルがある

とは言っても言葉の壁もある上に、バーチャルというのはハードルが高いと感じる人も少なくないはずだ。バーチャルチームを効果的に機能させるために、メンバーは具体的にどのようにすればよいか、ヒントとして我々は6つの行動を勧めている。

1) 会議内容をリアルタイムに文字で確認
バーチャル会議では、会議の内容をデスクトップ共有ツールなどを用いて、英語でリアルタイムに共有する方法が有効だ。これによって、誰もが内容を共有、確認できる上に、議論に一時的についていけなくなった場合でもすぐに内容をキャッチアップすることができる。

2)メールに加えて電話
メールだけでのやりとりは日本語でも時に誤解や紛糾を呼びがち。ましてや文化や言葉が異なる場合、ミスコミュニケーションがあると感じたらすぐに電話を。生身のやりとりでより深い信頼関係を構築し、チームでの存在感を高める事ができる。

3)自分の状況を知らせる努力を
「この件について返事をくれ」と言われた時はまず「了解、いついつに上司から返事がもらえるから、いつ頃返事をする」というように自分の状況を伝えることで、顔の見えない相手をイライラさせたりいらない失望をさせたりせずにすむ。

4)バーチャル会議では助っ人を頼む
チームメンバーの誰かに会議の最中、自分に話を振ったり、ケアしてくれるよう頼んでおく。

5)自分が貢献できることを伝えておく
「言葉が流暢でない」といったことを申し訳なく思う必要はない。貢献できる事があるからそのチームにいるはずだ。自分がどんな貢献ができるかを具体的にチームメンバーにきちんと説明しておく。

6)「上司に相談して返事」はNG
あらかじめ上司と「ここまでは譲歩してOK」「こういう提案だったらA案、そうでなければB案」というように内容をシミレーションしておき、バーチャル会議の場で、ある程度自分で決済が行える状況にしておく。

グローバルチームでチームワーキングする難しさをCSPの観点で紐解き、その難しさに対応するためのコミュニケーションの勘所を具体的に述べてきた。グローバルチームを率いるリーダーには、常にCSPの壁をメンバー皆が乗り越えられるよう、導き、支援することが求められる。