グローバルな組織開発はなぜ難しいのか?〜グローバル組織開発の5つの視点(1)

PFCでは、グローバル化する日本企業や外資系グローバル企業の組織作り・人材育成のご支援に取り組んでいます。今回から数回にわたり、「グローバル組織開発」をテーマに、その考え方・課題・解決方法などをご紹介していきます。
第1回は、グローバル組織開発が求められる背景や、グローバル組織開発の難しさ、取り組みの基本的な考え方などをお伝えします。

・日本企業は人と組織のグローバル化においては、圧倒的に遅れをとっている
・ここにきてどの企業でも一気にグローバルにおける人と組織の問題が露呈してきているように見える
・グローバル人材を活かすためには、組織のグローバル化が欠かせない
・日本企業は、組織のグローバル化の4段階の途中で止まっている
・日本企業に勤める外国人社員の多くがフラストレーションを感じている
・グローバルな組織開発には、CSPの複雑性への理解と対応が不可欠

真のグローバル化へ周回遅れの“人と組織”
今日、業種や分野を問わず、ほとんどの企業の経営方針にはグローバルビジネスの強化が掲げられており、グローバル化は日本企業の重要課題となっている。
日本の大手メーカーの海外生産比率は、業種によっては半分を占めるに至っている。海外売上比率も、10年前と比べるとどの業種でも軒並み大幅に上昇した。日本の産業は、生産も市場もグローバルなしでは成り立たない状況にある。そして、多くの企業が引き続き海外事業を強化・拡大する姿勢を示している。製造業・非製造業ともに、多くの日本企業にとって、グローバル化は将来の成長の鍵を握っており、全社的に取り組むべき課題として今後ますます重要性を増すことは明らかだ。

しかし、日本企業の海外進出は何も今に始まったことではない。何十年も前から製造業は、工場を海外の至るところに作ってきたし、日本製品を世界相手に売りまくっていた。金融機関もバブル期の1980年代には既に積極的に海外進出を果たしていたし、不動産業に至っては海外の土地・建物を買い漁って世界を震撼させるほど、今以上に影響力を持つ時代もあった。
にもかかわらず、今になって、ことさらに日本企業のグローバル化が問題視されているのはなぜか。今叫ばれる日本企業のグローバル化とは、いったい何なのか。

あらためて整理してみたい。そもそも企業がグローバル化するとは、製造・販売・流通・開発・資本等、様々な領域でのグローバル化が求められるということだ。日本企業はモノづくりの強みをテコに、“製造”や“販売”をはじめとする機能のグローバル化は既に成し遂げてきた。グローバル化は実はとっくの昔から進めてきたのだが、しかし、グローバル化が進まずに最後に残ってしまっているのが“人”と“組織”の領域だ。日本企業は人と組織のグローバル化においては、圧倒的に遅れをとっている。
売上や生産の海外比率が1/3を超えるようになり、グローバル化が一部の人や部門の課題ではなく、全社課題として取り組むべき課題になったことで、ここにきてどの企業でも一気に人と組織の問題が露呈してきているように見える。

そこで、人と組織のグローバル化のうち、まずは人のグローバル化、即ちグローバル人材の育成や外国人採用には既に多くの企業が力を注ぎ始めた。グローバル化の取り組みとは、グローバル人材不足の解消に他ならないと考え、取り組みを加速化すべく研修や採用に躍起になる企業が増えた。確かに人材のグローバル化は、日本企業の喫緊の課題だ。しかし、組織もグローバル化させるという視点を持った企業が少ない。単なる人材育成を超えた“組織”のグローバル化も同時に実現できなければ、せっかく育成したグローバル人材を活かすことはできない。それどころか、グローバル化しきれない組織に愛想をつかして早々に出て行かれてしまう。そもそも組織がグローバル化していなければ、真のグローバル人材も育たない。日本企業が真にグローバル化するには、人と組織、とりわけ、組織のグローバル化こそが主要課題と認識すべき時代がやってきた。しかし、組織のグローバル化にまで取り組んでいる企業は稀だ。

組織のグローバル化の4段階の途中で止まる日本企業
組織がグローバル化していく過程には発展段階がある。異文化経営の権威であるN.アドラーのモデルを借りて、組織のグローバル化の発展段階を考察してみよう。アドラーは、企業の国際化の段階を4つに分けている。。[図表1]

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【図表1】企業の国際化4段階と組織のグローバル化

最初の段階が「国内(での活動のみの)企業」。販売も製造も、国内しか視野に入れていない。次の第2段階が輸出や海外生産を行うようになった「国際企業」。この段階では、事業の中心は日本にあり、組織の要職は日本人が独占している。
さらに国際化が進むと、海外拠点の現地化が進み、現地の組織運営や経営は現地の社員に任されるようになる。第3段階では「多国籍企業」と呼ばれる。この段階では、「現地社員にもっと会社としての方向性や企業文化なるものを理解してもらおう」、あるいは「優秀な現地社員はさらに要職で登用していこう」といった動きが高まる。

現在、日本企業のほとんどは、組織のグローバル化の発展が第2段階で止まっている。第3段階まで進んでいると自負する、あるいは周囲からそう見られている企業でも、第3段階の活動を効果的に行えず、実質的に第2段階止まりという日本企業を多く目にしてきた。組織のグローバル化が第3段階まで進んでいるかどうかは、実際に組織で働いている現地の人達が、自組織をどれだけ魅力的に感じているかで測ることができる。例えばアジア各国での企業の人気ランキングを見ても、トップ100社に日本企業はわずかに数社がランクインしているだけだ。これは、自身が働く場、活躍できる場としての魅力が薄いと映っているということだ。製品や商品はどんなに世界を席巻しているとしても、自身が属する組織として考えたときには、残念ながら日本企業はまだまだ世界の水準にほど遠いと認識せざるを得ない。

一方、他国の企業では、第4段階にまで進んでいるところが少なくない。第4段階でようやく「グローバル企業」と呼ばれる。グローバルな視点で最適な開発、製造、販売活動が模索される。A国でハードウェアを設計し、ソフトウェアはB国で開発した製品を、コスト的にも品質的にも最適な生産が可能なC国で作り、D国の消費者の嗜好性に微調整して販売するといったことが行われる。そこでは、 “グローバル最適な”ビジネス活動が円滑に行われるよう、組織もグローバル最適を追求するようになる。あらゆる機能で、国を超えてチームが形成され、国を超えて必要な活動が行われる。

多くの日本企業にとって、組織のグローバル化を第4段階まで進めることは、大いなるチャレンジだ。日本を代表するある企業で、トップが嘆いているのを耳にしたことがある。「わが社では、人や組織をなぜ『グローバル最適』にできないのか。製造や販売においては、『グローバル最適』にしてきただろう。世界で最も効率がよい場所に工場を作ってきたし、世界で最もコストと品質のバランスのよいところから部品も調達してきたはずだ。世界中から伸長する市場を探して積極的に進出し、販路も世界に拓いてきた。しかし、こと人や組織となると、グローバル最適が実現できないのか。グローバル最適を目指そうという発想すら出てこないのか。例えば、人にしても、そのポジションに適した世界で最も優秀な人を、日本人にかかわらず採用・登用するという発想が必要だ。同時に組織にしても、何人であってもどこにいても、世界中の社員が魅力に感じ、世界中の優秀な社員を惹きつける組織運営が必要だ。単にこれまで日本で行ってきた組織運営をそのまま海外でも行うのでは、うまくいかないはずだ」。

なお、今日のような情報化社会では、企業の国際化は段階的に進展するとは限らず、それに伴う組織のグローバル化も必ずしも段階を踏まなければならないわけではない。楽天やユニクロを展開するファーストリテーリングのように、一気に第3や第4の段階に行こうとする日本企業も出てきた。グローバル化に出遅れたと考える企業は、これからの巻き返しに向けて、最初から第4段階の実現を目指すのも一つの手だが、なおさら組織のグローバル化が重要なテーマになろう。

グローバルなコンテキストで健全かつ強固な組織作りを
組織のグローバル化とは、企業の国際化の発展段階に合わせて、特に第3段階で組織運営の現地化を進めることや、第4段階で組織のグローバル最適を追求することだ。そのために必要なのは、当然のことながら、単にグローバルな組織図を作るとか、グローバルに制度整備するとか、あるいは、グローバルでの経験を豊富に有しているトップが組織を運営する、などということではない。必要なのは、「グローバル組織開発」の取り組みだ。
グローバル組織開発とは一言でいえば、「グローバルなコンテキストで、健全かつ強固な組織作り」をするということだ。

残念ながら、海外進出してから長い日本企業からも、グローバルな環境では、健全さや強固さに欠ける組織の姿が浮かび上がってくる。例えば、我々がコンサルティングを行う日本企業の海外現地社員からよく聞かれる組織に対する不満の声は、次のようなものだ。

  • 同じ肩書きでも、日本人と現地人では扱いが違う
  • 方向性や目標が明確に伝わってこない
  • 本社から来る情報が曖昧で分かりづらい
  • どうしたら自身の貢献が認められるのか、聞いても教えてくれない
  • 業績評価基準が不明確で、きちんとした評価もしてもらえない
  • 駐在員が3~4年ごとにコロコロ代わり、本社の伝達係のような存在で、実際の現地ビジネスに貢献しているとは言い難い
  • 本社から、英語力もマネジメント経験も浅い人材が現地マネージャーとして派遣されるとモチベーションが下がってしまう

日本企業に勤める外国人社員の多くはこのようにフラストレーションを感じている。その多くは、現状に対する認識やゴールに関する認識に差異があったり、本社と現地法人の間の情報が断絶されていたりといった、組織運営上生じるギャップが原因だ。このような状況を打開するために、グローバル人材育成のみならず、「グローバル組織開発」の取り組みが必要だと我々は考えている。

組織開発された組織とは、「優れたリーダーシップにより統率され、効果的なチームワークにより支えられ、多様なメンバーが価値観を共有しながら一体となって、変革を推進し、継続的に成功する組織」とかつて我々は定義した。グローバル組織開発とは、組織開発をグローバルなコンテキストを踏まえて行うことに他ならない。
我々が提唱する組織開発を進める5つの視点、すなわち「リーダーシップ」「チーム」「ダイバーシティ」「バリューズ」「チェンジ」の5回に分けて、日本企業がグローバルな舞台においても健全で強固な組織作りを行うための方法やヒントを探っていく。[図表2]

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【図表2】グローバル組織開発の5つの視点と3層の複雑性

3層の複雑性を克服し企業の競争力向上に貢献
組織開発、すなわち「健全で強固な組織づくり」は、そもそも国内組織でも十分にできていないという企業は少なくない。しかし、それができないままにグローバル化を進展させ、グローバルな組織を作ろうとすると、広がりも影響範囲も大きい分、その弊害は数倍にもなってはねかえってくる。

組織開発は、どこで行うかによって本質的にやり方や試みが異なるわけではないが、グローバルに効果的に組織開発を行うには、「コンテキスト(文脈・背景・状況)」の認識や理解、対応が鍵だ。
ある大手英系企業の人事部長は、「有名日本企業の成功しているマネージャーをヘッドハントしたのだが、精神論ばかりで戦略は立てられないし、部下の指導も上手くない。いったい、どうしてあの日本企業は成功できているのか不思議だ」と驚愕を口にしていた。このエピソードは、裏を返せば、日本人が活躍できるのは日本企業内という一定の組織の「コンテキスト」があってこそという前提を如実に物語っている。日本企業で働く多くの日本人にとって、グローバルな組織の「コンテキスト」は自然に理解できるものではないはずで、意識し理解するための枠組みや整理が必要だ。

組織がグローバルになるとコンテキストは複雑性を増す。従って、組織開発の取り組みも難しさを増す。その複雑性はCSP(C=Cultural:文化的要因 S=Structural:制度的要因 P=Physical:物理的要因)の3層から成ると我々は考えている。これらが組織運営におけるギャップを生む要因だ。
国や地域が異なることそのものよりも、“文化的要因”によって生じる違いが組織運営を難しくさせる。政府や市場、あるいは組織内の制度など“構造的要因”に十分に配慮しなければ、国内での組織運営では想像もしなかったことが重要な課題となる。距離や時間等の“物理的要因”もまた、工夫して克服できなければ、組織運営上大きな壁として立ちはだかる。
まさに、グローバルに組織運営するには「Global Penalty(=グローバル化の代償)」を払わなくてはならないといえよう。本連載では、グローバルな組織運営を難しくする3つの層に、具体的にどのように対処していけばよいかを紐解いていくことを目的としたい。

日本企業の組織のグローバル化に関する危機感を共有してきた。多くの日本企業にとって、グローバルに健全かつ強固な組織作りができるかどうかは喫緊の課題でもあり、将来の浮沈も左右すると考えるからだ。
しかし、現状うまくできていなくても、決して悲観する必要はない。そもそもグローバルな組織では、世界のリーディング企業でさえ、組織の健全性を保つことは国内組織に比して圧倒的に難しい、という調査結果もある。(「Understanding your ‘globalization penalty’  Martin Dewhurst, Jonathan Harris, and Suzanne Heywood」McKinsey Quarterly July 2011)日本企業のみならず、どの国の企業も苦労しているということだ。
しかし、どこも苦労しているからこそ、グローバル組織開発の要諦を知り少しでもうまくできるようになれば、企業の競争力向上に大いに貢献するはずだ。(代表取締役:松村卓朗)

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